MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2675 103万円は「年収の壁」なのか?

2024年11月27日 | 社会・経済

 政府・与党は、働く学生らが年収103万円を超えると親の扶養から外れる仕組みを見直し、「特定扶養控除」の年収要件を引き上げる方向で調整に入ったと11月27日の読売新聞が報じています。

 19~22歳の学生世代を対象に、子どもの年収が103万円以下の場合に親の所得から63万円が控除されるというのが「特定扶養控除」のアウトライン。もしも子供の年収が103万円超え扶養から外れると控除が適用されなくなり、親の手取り収入が減るため学生バイトらの「働き控え」につながっているとの指摘が出ていたとされています。

 政府関係者によると、見直しに必要な財源は年数百億円規模とされ、具体的な引き上げ幅は今後検討する由。政府・与党は、年収103万円を超えると所得税が課される「103万円の壁」を引き上げる方針を既に決めており、もう一つの「103万円の壁」と言われる特定扶養控除の適用除外についても、国民民主党が対応を求めていたということです

 さて、こうして次々と壊されていく(かのように見える)「年収の壁」ですが、本当にこの103万円を何十万円か引き上げるだけで、(国民民主党が胸を張るように)専業主婦の「働き控え」の解消につながっていくものなのでしょうか。

 11月27日の総合ビジネスサイト「現代ビジネス」に、名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田 泰(はらだ・やすし)氏が、『国民無視の「年収の壁」には、もううんざり…!』と題する論考記事を寄せているので、参考までに指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 国民民主党は、税金の年収の壁をなくし手取りを増やすために、所得税が課される年収の基準を103万円から178万円に引き上げるよう主張している。しかし、この主張はある意味政治的なパフォーマンスで、「年収の壁」という言い方自体、選挙対策としてのキャッチ―なコピーに過ぎないと原田氏は捉えています。

 冷静に見ればすぐにわかること。これは「年収の壁」の問題というよりは、物価が上がりまた名目賃金も上昇していることから、税が免除される「基礎控除」と「給与所得控除」(以下、「基礎控除」に統一して言う)の合計を(現行の103万円から)引き上げようという対応。

 基礎控除額が本当に178万円まで引き上がるかどうかは別にしても、インフレにあわせて控除額を引き上げるのは多くの国でやっている「当たり前」の政策で、私ももちろん賛成だと氏はこの論考に記しています。

 インフレが進む中、控除額を103万円に固定し放置したままでは実質的な増税と変わらない。物価や賃金の上昇で国は消費税や所得税の歳入が増えているわけだから、基礎控除額を増やすという実質的な減税をして調整するのは、まさに「当然」行うべき政策だということです。

 ただし、あくまで「年収の壁」に照らして議論を進めると、実は所得税は「103万円の壁」を作っているわけではないと氏は言います。年収が103万円を超えて113万円になっても、113万円から103万円を引いた10万円に5%(つまり5000円)が課税されることになるだけ。なので、9万5000円は収入になるということです。

 (「税金はびた一文払いたくない」という人は別にして)にもかかわらず、それでもこれが「年収の壁」と言われているのは、「扶養控除」の問題があるからだと氏は説明しています。

 例えば、(先にも述べたように)学生が103万円以上稼いでしまうと親の特定扶養控除63万円がなくなって、親の税金が一気に増えてしまうこと。仮に親の所得が600万円だったとすると、地方税も含めて税率3割で18万円程度は家計の手取りが減る計算になり、親の扶養に入っている学生などは、働くことを控えるように親から申しつけられているということです。

 さてそこで、このような状況に対し考えられる「所得税の壁」の解決策は、子どもの所得が5万円上がるごとに扶養控除額を5万円ずつ段階的に引き下げていくことだと、この論考で原田氏は提案しています。

 ちなみに、実際、配偶者控除は妻の収入に応じて段階的に引き下げられている。財務省の性格からして、扶養控除を段階的に引き下げる改革をするのは「面倒だ」と言いそうだが、なぜ配偶者控除と同じことができないのか「意味が分からない」というのが氏の見解です。

 結局のところ、103万円の所得控除の引き上げは、時代の変化の中でおのずと必要な対応であって、「壁を壊す!」と大上段に振りかぶるほどのものだはないということでしょうか。政治には「やってる感」「やったふり」も大切で、特に、現在政治のキャスティングボードを握る国民民主党に、政府与党が「花を持たせている」という状況かもしれません。

 とはいえ、こうした問題よりもより厄介なのが「社会保険料の壁」の問題だと、原田氏はこの論考の最後に綴っています。(税控除の問題はともかく)社会保障の問題は本物の壁として機能している場合も多い。私はこれをなくすことが何より重要だと考えていると話す氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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