国内のオートバイメーカーでつくる日本自動車工業会が毎年行っている「二輪車市場動向調査」によると、オートバイ購入者の平均年齢は年々上昇傾向にあり、2023年には(実に)55.5歳に達したということです。
(同調査によれば)2023年にバイクを新車で購入した人の年代別の割合は、50代が最も多く32.8%、そして60代が2番目に多い29%で、70代以上も11.4%を占めている由。一方、それ以下の(若い)世代では、40代が16.3%、30代が5.8%、20代が3.4%、10代に至っては(僅かに)1.3%という結果だったとされています。
特に、以前は主要な購買層であった20代、30代は、いずれもこの16年間で3分の1以下にまで落ち込んでいるということであり、ライダーの高齢化が急激に進んでいることが見て取れます
「年寄りの冷や水」ということもないのでしょうが、こうした状況を要因としてか(警察庁によれば)2023年中に東京都内で起きたバイクの死亡事故件数を年代別で見ると50代が最も多く、次いで40代が多いとのこと。勿論、この年代のライダーが他の年代に比べ比較的多いということもあるのでしょうが、中高年になってからオートバイに復帰した(いわゆる)リターンライダーの増加が影響している可能性も指摘されているところです。
振り返れば、現在のオートバイ市場で主要顧客となっている(昭和40年(1965年)頃に生まれた)還暦前後のおじ様が青春時代を過ごした1980~1990年代は、空前のオートバイブームだったとされています。確かの当時は、国内オートバイメーカー各社が競ってレーサーレプリカやアメリカンタイプのクルーザー、オフロードバイクなどをラインナップし、二輪市場はそれまでにない活況を呈していました。
夜の街道を、「暴走族」と呼ばれる若者たちが、我が物顔に走り回っていたのもこの頃のこと。最盛期と言われた1980年11月に警察庁が行った調査では、全国で754グループ、38,902名(の暴走族)が確認されたということです。
さて、現在の二輪市場を、そうした彼ら世代が支えているのは数字からも明らかです。1980~90年代に(バイクとともに)青春時代を過ごした彼らが仕事や子育てを一段落させ、(自由になるお金や時間ができた今)「リターンライダー」として戻って来る流れが加速しているということでしょうか。
実際、高速道路のサービスエリアなどで一休みしているツーリングライダーたちを見ても、その多くは白髪交じりのシニア達。20~30代とおぼしき若い人の姿は、ほとんど見当たりません。その大半が少し気合の入った皮つなぎや外国製の高級ヘルメットなどを身に纏い、1970~80年代の旧車をモチーフにした(いわゆる)ネオクラッシック・バイクにさっそうと股がっている姿などを見て、「高齢化社会」の到来を感じているのは私だけではないでしょう。
さて、こうした状況の中、近年のオートバイ市場を特徴づけているのは、この「ネオクラッシック・バイク」の台頭だとされています。この種のバイクは、(以前はなかなか若者には手が届かなかった)往年の名車を意識したスタイルを、現代の工業技術で再現したもの。2010年代後半頃から世界的なブームとなり、それに伴い、各社さまざまなモデルを販売するようになりました。
因みに、現在の国産大型オートバイで最も人気がある(日本のネオクラ市場を事実上牽引している)と言われるモデルが、カワサキの「Z900RS」というバイクです。2017年の発売以来、(401cc以上の)大型二輪クラスでダントツの売れ行きを誇っており、(注文してもなかなか手に入らない)「キング・オブ・ネオクラッシク」、またの名を「おじさんホイホイ」と呼ばれるほどの人気を誇っています。
このモデルは、現代の技術に裏打ちされた「ストリートファイター」のZ900をベースに、往年の名車「Z1」や「Z2」に似た外観をまとわせたもの。Zシリーズの象徴である「火の玉カラー」などで化粧を施され、もはや気分は「70年代」といった感じです。
こうして、シニアの心に刺さりまくる新車たちを前に、還暦前後のおじ様たちの心は揺れ動く。本物のクラシックバイクを所有するには、相応の資金と知識が必要になる。しかし、これら「ネオクラ」のバイクであれば、見た目はクラシカルでも中身は現代の技術で固められているため、維持費は安く故障も少ないので安心・安全に乗ることができるというワケです。
しかし、もとより「オートバイに乗る」という行為は、(今も昔も)体力勝負なところがあるのは言うまでもありません。車などと比べ操縦は身体全体を使わなければならず、生身の体をさらして走るのは、それだけで危険と隣り合わせともいえます。
一方で、誰でも年齢を重ねれば、体力や筋力だけでなくバランス感覚や反応速度など、あらゆる運動神経が低下していくもの。リターンライダーには(己の経験や体力を過信することなく)運動神経の低下をしっかりと理解し受け止めた上で、慎重にオートバイと向き合うことが求められることでしょう。
還暦を目前に、目に見えて落ちていく気力や体力。もちろん、「輝いていた青春をもう一度」…その気持ちを大切にするのは素晴らしいことですが、「もう昔のようには若くない」という現実とも、頭のどこかにおいておく必要があるのだろうなと、改めて感じた次第です。
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