MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1967 今回の総裁選は…ちょっといい感じ?

2021年09月16日 | 国際・政治


 9月17日に告示され、29日には早くも投開票となる自民党総裁選挙。実質的に日本の次期総理大臣を決める選挙だけに、投票権のない一般の国民も巻き込んでいつにない盛り上がりを見せています。

 旧態然とした派閥を超えた(2週間にわたる)「すったもんだ」の結果、ようやく役者も出そろいました。石破茂・元幹事長が15日に立候補を正式に断念したことで、出馬を表明している岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、河野太郎行政・規制改革相の3氏を軸に争う構図が固まったようです。

 石破氏や野田聖子氏などの(さらに個性的な)メンバーの影が薄いのは少し寂しいところですが、お昼のワイドショーなどの(普段はあまり彼らが出演しない)番組にも積極的に顔を出すなど、メディアなどを通じた3者三様のアピールにはなかなか興味深いものがあります。

 候補者それぞれの氏育ちや人柄、人間関係や政策の違いなどが細かく掘り起こされ、まるでご近所の町内会長さんや中学校の生徒会長選挙のような(お祭り気分の)雰囲気さえ漂ってきます。

 そういう意味で言えば、手垢のついた安倍長期政権の残滓をまとう自らの政権に終止符を打ち、自民党に世代交代を促した菅義偉という政治家は、同党の救世主と言えるかもしれません。

 この分では、誰が総裁になったとしても、当面はその新鮮さとともに「お手並み拝見」の御祝儀相場が続くでしょう。新型コロナ対策はもとより、エネルギーバランスや安全保障などの大きな問題から、皇室の在り方、夫婦別姓、党改革に至るまで、選挙戦で語った政策がどこまで実現されるのか、例え選挙権がなかったとしてもその言葉に注目している人は多いはずです。

 いずれにしても、一国のトップを選ぶ選挙がこれほど身近に感じられるのは、決して悪いことではありません。今回の自民党総裁選は、これまでとどこが違うのか。

 9月15日の「Newsweek日本版」に、ワシントンを拠点に活動するジャーナリストの冷泉彰彦氏が「自民党総裁選、3つのサプライズ」と題する興味深い一文を寄せているので紹介しておきたいと思います。

 普段暮らしているアメリカから日本の自民党総裁選を見ていて、いつも、全支持者が参加し(米国大統領候補を選ぶ)「予備選」と比べて見劣りするように思っていたと氏はこの論考に記しています。

 派閥の談合で総裁が決まったり、地方のボスを押さえることが大切とされたりと、民主主義として未成熟な部分が目立ったこともある。また、勝負にこだわって政策論争が疎かになるという印象も拭えなかったということです。

 ところが、今回の自民党総裁選は、そうしたイメージを覆しつつあるように思うと氏は話しています。その理由は、(事前には考えられなかった)次の3つのサプライズが進行しているからだというのが氏の指摘するところです。

 まず、1つ目のサプライズは、選挙運動の過程で政策論争が機能しているということだと冷泉氏は言います。

 例えば、金融政策やエネルギー政策などについて、核サイクルの問題、プライマリーバランス維持の問題など、国の将来を左右する重要な論点が浮上しつつあり、望ましい展開になっている。

 高市早苗氏などは、最初は保守イデオロギーを前面に出したイメージ選挙を狙うような構えだったが、次第にロックダウン法制についてはエボラ(出血熱)級の致死性の高い感染症に備えるなどの中期的な政策論を繰り出すようになっている。敵基地攻撃論なども、当初は相当に物騒な議論だったものが、北朝鮮のミサイルに対する抑止力をめぐる実務的な議論に向かっているということです。

 一方、「脱原発の信念を曲げている」などと評されている河野氏も、条件付きの再稼働を視野に入れつつ核サイクルの問題には日米原子力協定を踏まえて厳しい姿勢を取るなど、かなり重要な論争を提起するようになっていると氏は言います。

 一般に衆参両院の選挙では、野党か与党かというチョイスの中で、現実とは乖離した中で大ざっぱな選択迫られ議論も抽象的になりがちとなる。しかし、今回は自民党の党内の選挙ということで、実行可能な幅の中で、かなり具体的な政策の議論ができているように思えるというのが氏の評価するところです。

 続いて、2つ目のサプライズとして冷泉氏は「時間の感覚」の変化を挙げています。

 ネットの発達により、事実関係でいい加減なことを言ったり、無茶な主張をしたりすると瞬速で叩かれる時代となった。候補者がテレビ番組や演説などで行った発言は、ほとんどリアルタイムで報じられてSNSでの評価を受けることになり、その分、猛烈にスピード感のある選挙になっているということです。

 さらに、今回は菅総理の不出馬表明で事実上の選挙戦に入ったのが9月3日、投開票が29日ということで、選挙戦が極端に長くなっている。発言が瞬時に伝わって瞬時に評価を受ける一方で、延々と選挙戦が続くという環境の中で、政策論争が今後さらに研ぎ澄まされていく可能性があると氏は話しています。

 そして、冷泉氏が指摘する3つ目のサプライズは、「民意の反映」というものです。

 今回は、多くの派閥が自主投票となり、この点については、派閥の求心力が揺れているといった解説がされている。しかし、これは総選挙が間近に迫る中で、各議員が自分の選挙区の民意を考えて行動しているが故の現象だと氏は見ています。

 つまり、長い選挙戦の議論の中で、今回の総裁選には(間接的にではあっても)相当程度の民意の反映が期待できる。そして、各議員の選挙区事情やネットの世論などを相当に反映した政策がしっかり実行されれば、こうした傾向がさらに加速する可能性もあるというのが氏の見解です。

 確かに、国民自身がメディアなどでそうした議論を目にし、そこから生まれた政策が実現されるという経験を積んでいければ、国民の政治への意識や選挙の形も次第に変わってくるかもしれません。

 マスコミやネットメディアがその機能を十分に発揮し、候補者相互のオープンな議論が促進されれば、今回の総裁選は日本の有権者にとって一つの成功体験として記憶される。そうなれば、今後は段階を踏んでより本格的な予備選のような制度へと進めることもできるのではないかとこの論考を結ぶ冷泉氏の期待を、私も興味深く受け止めたところです。


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