MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1639 新型コロナと東京一極集中

2020年06月07日 | 社会・経済


 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて創設された地方創生臨時交付金の増額に関し、全国知事会が政府に提出する「緊急提言」の案文を巡って、小池百合子東京都知事とその他の知事との間に厳しい意見対立があったと5月25日の時事通信が報じています。

 反対意見が出たのは、今回の感染拡大について、「大都市部への過度な一極集中に伴うリスクを顕在化させた」と表現した部分。小池知事はこの記載に関し、「特定の地域の問題と示すのはいかがなものか。ここの部分は削除してほしい」と強く反発したということです。

 一方、その他の知事からは「(人口集中に伴う)東京の負担を少なくするためにも『東京などの大都市部』と明示した方がいいのでは」などの指摘も出て調整は難航。結局、「一極集中に伴うリスクを減少・回避することの重要性を改めて認識した」との表現に落ち着いたと記事はしています。

 確かに人口比で考えれば東京の新型コロナウイルスへの感染者数が多いのは当然ですが、そうは言っても、人口当たりの感染者割合で見ても首都東京が他の都市を大きく上回っていることは間違いありません。

 都知事としては、「東京ばかりが悪者にされたのではたまったものではない」と感じるかもしれませんが、東京を感染源としたクラスターの発生も数多く確認されているのは否定できない事実です。

 全国から人・モノ・カネが集まる東京一極集中。整ったインフラや財政力など、全国の自治体から羨ましがられることの多いことの多いメガロポリスですが、人口が多いというのも良いことばかりとは限らないということでしょう。

 長引く新型コロナ禍が生み出したこうした状況を踏まえ、日経新聞の経済コラム「大機小機」(2020.5.20)は、「コロナと東京一極集中」と題する一文を掲載しています。

 緊急事態宣言は39県で解除されたものの、首都圏の特に東京ではいまだ気の抜けない状態が続いている。「100年に1度」といえるウイルスとの闘いは長期戦になるという想定の下、政府の専門家会議は「新しい生活様式」を提言したと筆者はこのコラムに記しています。

 しかし、そのガイドラインを見る限り、現在のような緊急時には必要であるにしても、社会のあり方として長期的に受け入れられるのか心もとない内容もあるというのが筆者の認識です。

 毎日発表される全国各地の感染者数を見ると、東京都の数字の大きさに改めて驚かされる。東京都の人口は1392万人で日本の総人口のおよそ11%だが、感染者は5月18日時点で5065人と日本全体の総数(16160人)の31%を占める。一方、今も感染者ゼロを維持する岩手県の場合、人口は少ないとはいえ122万人おり、総人口の1%を占めているということです。

 人類の歴史とともに古いパンデミックは人口密集、つまり、大都市の問題であったと筆者はここで指摘しています。

 1665年からロンドンではペストにより約10万の命が失われた。猖獗(しょうけつ)をきわめる感染症のもたらした惨状を、「ロビンソン・クルーソー」の著者ダニエル・デフォーは、「ペスト」(1722年)で克明に描いたということです。

 災害、治安、戦争、衛生など、大都市は生命にとっての危険が多く生きていく上ではリスクが大きい場所だという20世紀初頭までの常識を、われわれはいつのまにか忘れていたのではないかというのが、この一文における筆者の問題意識です。

 巨大地震のリスクに加えて、今回の新型コロナ禍は大都市の感染症リスクの深刻さを人々に突きつけた。関東大震災(1923年)の後、生粋の江戸っ子だった谷崎潤一郎は関西に「Iターン」したというが、「東京への一極集中」というマクロの問題を考えると、そうした選択も十分説得力があると筆者はこのコラムに綴っています。

 日本列島の上に人はどのように住まうのか。19世紀末に始まり、戦後に加速した「東京への一極集中」は今なお続き、これを是正すべく政府が旗を振っても効き目は(これまで)いま一つだったということです。

 しかし、強いられた異常な環境下で(やむぬやまれず)急速に進む「オンライン化」と、大都市の感染症リスクへの再認識は、これまでの一極集中の動きに(ようやく)水を差すことになるかもしれないというのが筆者の指摘するところです。

 折しも、通信技術の発達は流通革命を産み、リニアモーターや新幹線などによる高速鉄道網は400キロ以上も離れた場所を1時間足らずで結ぼうとしています。

 狭い場所に集中して暮らす必要は(少なくとも「便利さ」という観点からは)次第に薄れつつある。これに続く価値観の多様化は、やがて新たな歴史的Uターンを生み出すかもしれないと考えるこのコラムの指摘を、私も興味深く読んだところです。


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