内閣府が発行している令和元年版の「高齢社会白書」によると、日本人の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳と、戦後一貫して延び続けています。
平均寿命の男女差は約6歳あるうえ妻の方が年下のカップルも多いので、現実問題として、80代から90代にかけての10年近い歳月を(未亡人として)単身で過ごす女性が増えているのも事実です。
一方、健康上の問題で日常生活が制限されずに行動できる期間とされる「健康寿命」は、男性で72.14歳、女性は74.79歳とされています。
平均寿命と健康寿命との差は男性で8.84年、女性で12.35年と広がっており、加齢に伴って心身の活力が低下する「フレイル」や認知症などの長寿リスクへの備えも(特に女性にとっては)一層深刻な問題となっていると言えるでしょう。
日本の社会を覆うこうした高齢化の進展に関し、6月10日のNewsweek日本版に、教育社会学者の舞田敏彦氏が「日本の未婚男性は長生きしないのに、女性は既婚より未婚の方が長生きする不思議」と題するレポートを寄せています。
日本は世界有数の長寿国として知られているが、あまり知られていない要素として配偶関係による寿命の格差というものがあると、氏はこのレポートに綴っています。
日本では未婚化が進んでいるが、(統計を見る限り)結婚していない未婚男性は長生きしていないというのが氏の見解です。
2018年中に亡くなった未婚男性は7万3435人で、その年齢分布を取ると最も多いのは全体の18%を占める60代後半の1万3210人。(独身男性の)死亡年齢の中央値は66.3歳で、男性の平均寿命が80歳を超えていることを考慮すれば「いかにも短い」というのが舞田氏の指摘するところです。
片や有配偶男性の死亡年齢中央値は81.3歳で、未婚男性より実に15年も長い。標準から外れているのは後者であるのは明らかで、食生活をはじめとした生活習慣が乱れやすいのが大きな原因だろうと氏は見ています。
さらに、男性の結婚チャンスは収入と相関するので、低収入・低学歴といった不利な条件の人が未婚者に集積しやすいという要因も考えられるだろうということです。
因みに、未婚男性の死亡年齢の中央値は、1980年時点では37.1歳だったものが、2000年では53.0歳、2010年では60.7歳とそれでも順調に伸びています。若者の未婚化が進んだことで、未婚状態が一般化しつつあると言うこともできるかもしれません。
一方、女性の死亡年齢中央値を出すと、未婚者が81.9歳で有配偶者が78.3歳(2018年)。男性では未婚者の方が明らかに早死にするが、女性はその逆になっていると氏はこのレポートに記しています。
女性の死亡年齢の中央値は、1980年の時点では未婚58.4歳、有配偶者64.8歳と、男性同様未婚者の方が短かったものが2000年には未婚72.7歳、雄配偶者70.4歳と逆転し、2010年には未婚79.1歳、有配偶者75.2歳へとその差が広がった。
近年では、未婚者の方が長生きする傾向がほぼ定着していることからも、結婚生活が「寿命」に及ぼすインパクトの性差には、日本ではある程度の普遍則がみられるというのがこのレポートにおける舞田氏の見解です。
では、なぜ統計上、配偶者のいる女性の死亡年齢(の中央値)は未婚女性よりも若いのか。
女性にとって結婚が重荷になる理由はいくつか考えられる。まずは出産による身体への負荷で、近年は晩産化もありその度合いが強まっていること。夫の家事分担率が低く、既婚女性の日々のストレスは尋常ではないこと。出産・育児で離職を強いられたり、夫の転勤のたびにキャリアや人間関係をリセットされたりするのも苦痛だろうと舞田氏は言います。
正社員として勤めることが減り、会社の健康診断も受けられず、自治体の健診に行こうにも幼児がいればその時間もがとれない。未婚化・少子化は進む一方だが、結婚がこうも重荷となればそれをためらう若い女性が増えるのも無理はないということです。
新型コロナの感染拡大防止のため在宅勤務が増えている昨今、家庭生活における家事や育児の負担が女性に偏っているのではないかという声が、(確かに)様々に聞かれるようになっています。
もしも、結婚生活が本当にパートナーの寿命をこれほどまでにすり減らしているのであれば、やはり、こうした機会にこれまでの生活パターンを見直していかなければならないと、私もこのレポートを読んで改めて感じたところです。
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