日経平均株価が、今年3月22日につけた4万888円を抜いて4万913円の史上最高値を付けた7月4日、日本の公的年金を運用するGPIFの2023年度の収益が45兆4153億円と過去最高を記録したとの報道がありました。
資産別の収益を見ると、外国株式が19兆円のプラス、国内株式も同様に19兆円のプラス、外国債券が7兆円のプラスで、国内債券は1兆円のマイナスを記録した由。米国市場、日本市場の株高が収益を押し上げ、円安によって外貨建て資産の評価額も増える一方で、最近の国内金利の上昇(債券価格は下落)が足を引っ張る形となったようです。
GPIF(Government(政府)Pension(年金)Investment(投資)Fund(ファンド・基金))とは、年金積立金管理運用独立行政法人のこと。約200兆円を運用する世界でも最大級の機関投資家として、株式市場では「クジラ」などと称されています。
なぜ「クジラ」なのかと言えば、有り余る資金力を活かし株式市場で幅広い銘柄を一気に買う様子を例えたもの。普段は水面下に潜んでいるが、市場の動きに合わせたまにその背中が垣間見えるところなど、いかにもネーミングの妙と言えるでしょう。
GPIFは、その名のとおり私たちが支払った年金の積立金(つまり「私たちのお金」)を運用している機関です。現在、高齢者に支払われている公的年金の財源は、現役世代の保険料と国庫負担で約9割が賄われており、残りの1割をGPIFが稼ぎ出す年金積立金から得られる収益によって補っている計算です。
つまり、運用収益の積み上がりは年金財政基盤の安定につながるわけで、厚生労働省によると2019~2023年度の5年間に積立金の収益は106兆円となり2019年想定の約6倍。2024年3月末時点の積立金の残高は291兆円に達し、(折からの株高に乗って)想定より70兆円以上振れしているとされています。
70兆円の儲け…と言えば、国民一人あたりに直しても50万円以上の利益を上げたということ。「日経平均」がどうのと言われても、(株をやっていない人にとっては)自分とは関係ない世界の話と思いがちですが、何を隠そう私たちの暮らしにも結構大きな影響があるということでしょうか。
その辺りの事情について、名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田 泰(はらだ・やすし)氏が7月10日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、「日本の年金運用がここにきて絶好調な本当のワケと、アベノミクスとGPIFがもたらした株高の真実」と題する一文を寄せていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。
日本が年金の市場運用をはじめたのは2001年のこと。06年にはGPIFが発足し、これまでに約153兆8000億円の収益を上げている。しかし、GPIFが昔から好調な運用成績をあげていたわけではない。好調になったのは株高を指向するアベノミクスが始まって以降だと原田氏はこの論考に記しています。
GPIFが発足した2006年からアベノミクスの始まる前の2012年度(安倍内閣は2012年12月発足なので多少のずれがある)までの運用益を見ていくと、アベノミクス以前は19.8兆円、アベノミクス以後は142.8兆円の利益でを上げていることがわかる。GPIFは国内債券、国内株式、外国債券、外国株式などで運用されているが、その内訳をみていくと、利益のかなりの部分が国内株式の上昇から来ているということです。
GPIFが利益を上げられたのは株高のおかげだが、運用方針の変更もそこに大きく貢献したと氏は併せて指摘しています。GPIFが、国内外の債券、株式等にどのような比率で投資するかを示すポートフォリオについては、2006年度の運用開始から2013年6月までは、国内債券が67%と過半数を占めていた。しかし、2015年10月にポートフォリオの見直しが行われ、国内債券の割合を直前の60%から35%まで大きく減少させたということです。
一方、国内株式を直前12%から25%、外国株式を直前12%から25%へとそれぞれ大幅に増加させた。この結果、国内株式、外国株式の上昇が利益に結び付くようになり、アベノミクス期以降のGPIFの運用益142.8兆円に繋がったと氏は説明しています。
もちろん、この利益はほとんどの国民に年金として還元されるはず。GPIFの利益が年金の増額になる訳ではないが、年金保険料を少しでも上げなくてもすむという意味で、将来の国民の利益になるのは間違いないということです。
さて、現在、政府が高齢者などに支払っている年金支出は、年間で56兆円ほどにもなる。そう考えれば、143兆円も3年分に満たないのかと思われるかもしれないと氏はここで話しています。しかし、不足分を「穴埋めする」ためとなれば、143兆円はかなり有効な資金となるはず。今後、高齢者が増え年金支出が増加していくとしても、貯えは少ないよりも多い方がいいに決まっているといのがこの論考で氏の指摘するところです。
まあ、よく考えれば我々のお金を、「よく知らないところ」で「よく知らない誰か」が株に投じているというのも恐ろしい話。国民はこのGPIFの動きに、普段からもっと興味をもって接していてもいいのかもしれません。
GPIFが行っているのは(あくまでも)株への「投資」なので、これから先も儲かるときもあれば大きく損をするときもあるでしょう。国民から搾り取った保険料を運用するのですから、くれぐれも「慎重に」と願うのは私だけではないでしょう。
株価には浮き沈みが付き物で2023年度のような株高やGPIFの運用益の黒字が毎年のように続くわけではないだろう。しかし、少しずつでも投資によって利益を貯めて行けば、将来の年金財政は(少しずつでも)強化され国民の利益につながるだろうと話す原田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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