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♯1291 「食べてはいけない」は今度は本当か?

2019年02月03日 | 日記・エッセイ・コラム


 「週刊新潮」誌の1月31日号の特集は、(例によって)年に一回程度(週刊誌ネタが乏しくなる頃に組まれる)恒例の「食べてはいけない」シリーズでした。

 今回の特集では、『食べてはいけない「超加工食品」実名リスト』と題し、「食事における超加工食品の摂取割合が10%増えるとがんリスクが12%上昇する」とするパリ第13大学の研究者らの論文を引き、「食べてはいけない超加工パンワースト41」や「避けたい超加工冷凍食品ワースト66」などを実名入りで紹介しています。

 ネット上では、早速(オーガニック食品を紹介するサイトや子育て中のお母さんたちのHPなどを中心に)「購入する際の参考になった」「やっぱりという感じ」「あまりに遅い警告」などと、同誌による告発を評価するコメントが寄せられています。

 一方、この「食べてはいけない」シリーズの特集記事に関しては、昨年7月の「週刊文春」誌の紙面に、『「食べてはいけない国産食品」は本当に食べてはいけないのか』というカウンター特集が組まれています。

 ライバル関係にある「文春」が、「新潮」の誌面において危険性の根拠とされた様々な指摘をひとつひとつ検証し、「科学的なエビデンスに基づかない」流説として「新潮はいたずらに消費者の不安感をあおっている」と非難したのは記憶に新しいところです。

 それぞれの食品に含まれる添加物は厚生労働省の基準に基づくリスク管理がされており、摂取量からいって危険性は(他の食品と比較において)大きいとは言えないというのがその主な理由です。

 果たして、今回の新潮の「食べてはいけない」リストの食品こそは、本当に食べてはいけないものなのか?

 今回の週刊新潮の特集記事に関し、食の安全と安心に関わる科学的情報の提供を目的とするNPO法人「食の安全と安心を科学する会」の理事長である山崎毅氏が、同会のHPに1月30日付けで「週刊新潮記事(2019年1月31日号)をファクトチェック」と題する論考を掲載しているので(参考までに)紹介しておきます。

 「超加工食品とはスーパーで売られているパンやインスタント食品のことだ。それらの摂取量が10%増えると、がんの罹患率が12%上昇するという衝撃的なデータ。以下は、そのパリ第13大学の論文を元にして調査した、食べてはいけない商品の実名リストである。」と記された今回の特集記事。

 山崎氏はまず、この記事の冒頭で引用されているパリ第13大学の研究論文に疑問を投げかけています。

 この論文が10万人以上が参加した9年間にわたる疫学調査であることから、科学専門誌に掲載されたこと自体は理解できる。しかし「超加工食品(ultra-processed food)」という非常に定義があいまいな食品群を多めに摂っていたグループでがん罹患率が高かったとの最終結論については、「食習慣の乱れ=栄養の偏りがある方はがんの罹患率が高くなる」というこれまでの知見とあまり違いがないレベルのものだと山崎氏は説明しています。

 氏によれば、食の安全・安心財団理事長で東京大学名誉教授の唐木英明氏は、いわゆるジャンクフードを多量に食べていると、①カロリーオーバー、脂肪分過剰、食塩過剰、食物繊維不足などによりがんが増える可能性が高い。そのほかに、②多くの食品添加物の複合作用の可能性、③加熱処理により発生したアクリルアミドなどの影響、④包装材のビスフェノールAの影響などの可能性がある…というこの論文の一部を(新潮は)都合よく取り上げ騒いでいると、コメントしているということです。

 また、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子氏は、ロンドン大学キングスカレッジのトム・サンダース教授の、「「超加工食品」を多く摂取したグループ(33.3%)は、摂取が比較的少なかったグループ(約18.7%)と比べて、喫煙者が多く(20.2% vs 16.9%)、日常運動量も少なく(24.7% vs 20.9%)、経口避妊薬服用者も多かった(30.8% vs. 22.0%)との指摘を踏まえ、「超加工食品」の摂取量ががん罹患率に直接影響したという結論に疑問を呈しているということです。

 こうしたことから山崎氏は、何が原因でがん発症率が上昇したのかについて食品摂取のグループわけがあいまいな本論文の結果では因果関係が不明であり、もっと詳細な食事成分の摂取量を解析する必要があるだろうと指摘しています。

 少なくとも、食品添加物等の種類が多いことががん罹患率上昇の原因という根拠はどこにもない。同記事は食品添加物等の種類が多ければ多いほど発がんリスクが高いという「まったくデタラメな理論を展開しているように見える」というのが、今回の週刊新潮の記事に対する氏の見解です。

 私たちが毎日食している一般食品は、何万何千種類の天然物の集合体であり、その中には多数の発がん物質もあれば抗発がん物質も存在し、そのバランスをもって当該食品全体の発がんリスクの大小が決まっていると山崎氏は説明しています。

 一方、食品成分に多数の発がん物質が含まれるのと比較して、意図的に食品に加えられる食品添加物は安全性データがしっかりそろっているエリート集団だと氏は言います。

 今回採り上げられた「14種類の食品添加物等」も、食品行政が法規制により規定した使用基準に基づいて食品に添加されている限り、生体への悪影響が発現する可能性は限りなくゼロに近いと考えられる。また、食品安全の専門家の多くが、(実験の結果)生体影響のない添加物Aと生体影響のない添加物Bを一緒に使っても、相乗作用で生体影響が現れる可能性は極めて低いと指摘しているということです。

 こうしたことから、科学的エビデンスがないにもかかわらず、食品添加物等の種類が多い加工食品ほど発がんリスクが高いかのようなランキングを(主に販促目的で)公開する週刊新潮の姿勢に対し、氏は「消費者の恐怖や不安を煽ることで当該加工食品の信用を毀損する悪質なフェイクニュースである」と批判しています。

 さて、「食べてはいけない」と言われれば心配になるのは人情です。当然、供給者サイドには、そこで言い訳をすればますます顧客を疑心暗鬼にさせてしまうのではないかという懸念もあるでしょう。

 それもわからないではないですが、リストアップされた商品を販売する各社こそが、この際、自信と責任をもって、消費者に対し(汚名を晴らすための)きちんとした反論や説明を行うべきではないかと(個人的には)考えるのですが、果たしていかがでしょうか。



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