1月17日に発表された中国の人口統計において、2022年末の同国の総人口が前年末から85万人減り、人口減少の段階に入ったことが明らかにされました。2022年末の中国の人口は14億1175万人。人口減は(毛沢東の大躍進政策の失敗で5000万人とも言われる大量の餓死者を出した)1961年以来、61年ぶりのこととされています。
もちろん、14億人と言えば、世界的に見ればそれでも十分なインパクトはありますが、今年にもインドに抜かれるとの予測が出る中、国際社会のパワーバランスへの長期的な影響を懸念する識者も多いようです。
中国で出生減に歯止めがかからない要因には、長年にわたって続けられてきた「一人っ子政策」に加え、都市部における住宅や教育費の高騰や女性の社会進出に伴う晩婚化など、同国の政治体制や社会が抱える構造的な問題が指摘されてきました。
もちろん、中国政府も2015年以降、それまでの人口抑制策に見切りをつけさまざまな少子化対策を打ち出してきましたが、遅きに失した感は否めません。実際、政策転換は大きな効果を見ておらず、消費の先細りや社会保障費の増大など(21世紀の同国には)様々な課題が立ちはだかっているように見えます。
さらに彼の国に関しては、その規模の大きさや独自の社会観から、他の先進国とはまた違った課題も浮かび上がっているようです。1月19日の総合情報サイト「現代ビジネス」に、同サイト編集次長の近藤大介氏が『中国がついに人口減少へ…そのウラで「男が余りまくる」という“大問題”が起きていることをご存知ですか?』と題する論考を寄せているので、参考までにその一部を紹介しておきたいと思います。
世界の出生数を見ると、男子が女子より多いのは各国に共通な現象で、国連では「102から107の間」を正常な国家と定義づけていると氏はこの論考に記しています。
例えば2016年の日本の出生数は、男子50万1880人、女子47万5098人で、男女比は105・6となっている。だが中国の場合、120を超えた年が近年で3年もあり(04年、07年、08年)、統計学上これは明らかに異常な数字だというのが氏の認識です。
これは中国が長年にわたって行ってきた「一人っ子政策」の「副作用」だと氏は話しています。「どうせ一人しか生めないのなら、男の子を生もう」という夫婦が激増。特に、働き手や跡取りを求める農村部において、この傾向は顕著だったということです。
結果、2020年には、同国で結婚適齢期とされる20歳から45歳までの人口が、男性の数が女性の数よりも、3000万人も多い歪な社会となってしまっている。一口に3000万人と言うが、これは実に日本の総人口の約4分の1にあたる数だというのが氏の指摘するところです。
かくして、2020年以降の中国には、結婚適齢期を迎えながらも結婚に苦労するであろう男性が3000万人に達するという、未曽有の男余り、超男性社会が到来する。それは一体、どのような社会となるのか?
第一に、同世代の中国人女性と結婚できない中国人男性たちが、中国よりもっと貧しい国々の女性を娶るケースが増えるだろうと、氏はこの論考で予想しています。
2018年正月に北京で、大学院生の青年たちから聞いた話では、すでに周囲には、ベトナム人やモンゴル人女性などと結婚する男性が出始めているとのこと。特に若い「一人っ子世代」はスマホという「共通言語」、強い武器を持っているので、国境のカベを容易に飛び越えてしまうだろうということです。
そして、氏が予想する第二の現象は、「空巣青年」の増加というものです。「空巣青年」とは、親元を離れて大都市で一人暮らしをしている若者のこと。一人っ子世代の彼らは休日にも他人と交わらず、狭い自室に引きこもって日がなスマホをいじっていることから、「空巣青年」と呼ばれていると氏は説明しています。
2018年の春節の大型連休期間中の中国国内の旅行者は、3億8600万人に達し、旅行関連収入は4750億元(約8兆円)に上ったとされている。しかし、政府が予想した「4億人、5000億元」という当初のラインには届かなかったのは、「空巣青年」たちが、自宅に引きこもったままだったからと見られているということです。
こうした状況を受け、最近の中国では「空巣青年」たちの消費を指す「孤独経済」という新語まで生まれていると氏は指摘しています。ネット消費はもとより、SNSによる交流や課金制のゲームなど、「モノ」や「体験」にもこだわりのない彼らに、中国共産党の指導部はどのように向き合っていくのか。そこには、単なる「規模の縮小」にとどまらない、未知の世界が広がっていると言っても過言ではないでしょう。
ともあれ、中国民政部発行の『2016年社会サービス発展統計公報』によれば、2016年の結婚登記者数は1142万8000組で、前年比6・7%減3年連続の減少により16%も減少していると氏はしています。
今後、加速度的に少子高齢化が進み、人口減少期に移っていく中国の社会的・経済的安定は、国際社会の安全保障にとっても重要なファクターとなってくるはず。60年前の大躍進政策のような大規模な政治災害が起きないよう、14億人の人口を率いる習近平政権には(是非)ソフトランディングを目指してもらいたいと、改めて感じる所以です。
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