企業の役員や管理職など、指導的な立場にある女性の比率を高めるため、政府は、女性の役員登用を促す仕組みづくりも視野に改善策を話し合う有識者会議を立ち上げることを決めたと、12月23日の朝日新聞が報じています。
「2020年代の可能な限り早期に指導的地位における女性の割合を30%程度にすることを目指す」という(多少回りくどい)政府の目標。しかし、これすら実現可能性が低いとされる中、今年策定される予定の「女性活躍・男女共同参画の重点方針」に有識者会議の意見を盛り込み、女性活躍を通じた経済成長を後押しする考えだということです。
内閣府の発表によると、上場企業の女性役員数は2022年現在で3654人。この10年で5・8倍に増えたものの、いまだ全体の9・1%にとどまるとされています。時価総額の大きな企業が集まる「東証プライム市場」への上場企業に限っても、1837社のうち18・7%にあたる344社で女性役員がいなかったということです。
30%の設定から20年の歳月を経てもなかなか目標が達成できない現在の日本の実状を踏まえ、1月19日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」が、日本人の男性観の研究に注力しているカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授サビーネ・フリューシュトゥック(Sabine Frühstück)氏への(興味深い)インタビュー記事を掲載しています。(『だから女性は「子供を産まない」という選択をせざるを得ない…日本の男女格差が世界最悪レベルにある根本原因』:ニューヨーク在住ジャーナリスト肥田美佐子)
「日本のような男性社会で、女性が仕事で成功を収めるには、どのような戦略がベストと考えるか?」…質問に答え、フリューシュトゥック氏は「まずはおじけづかないで」と話しています。男性から抵抗を受けるのではないかと心配する女性は多いだろう。実際にそうした経験をすることもあるかもしれないが、それでもでも(是非)「ひるまないでほしい」というのが氏の意見です。
そして、次に重要になるのが、社内や社外における人間関係の構築だと氏は話しています。女性同士の交流ももちろんだが、男性との人脈を築くことが重要になる。年齢層や役職、部署、組織を超えて、できる限り広範囲の人脈を構築することが(その後の)役に立つということです。
中でも、先輩やベテラン男性との人脈は重要だと氏はしています。味方になってくれる男性は必ずいる。そこでは、それが誰なのかを見極めることがカギになるということです。
同じ仕事で競い合っている(同レベルの)男性は、そうした女性にとって最も手ごわい存在だが、(さらに上の)ベテラン男性は、多くの場合女性にアドバイスをしたりメンターになったりすることに前向きだと氏はアドバイスしています。
一方、(繰り返しになるが)そこではまず、誰が味方になってくれそうかを(慎重に)見極めることが非常に重要だというのが氏の見解です。女性は、愛想のいい丁重な振る舞いを期待され、相手を優先して平和的に物事を進め、野心や自分を抑えるよう求められがちとなる。そのため、(つい)「誰からも好かれたい」と考えてしがちだが、自分自身のキャリアのためには、そんな必要は全くないというのが氏の指摘するところです。
女性にとっては最も難しいことの1つかもしれないが、(覚悟を決めるには)「誰もが自分を気に入ってくれるわけではない」という事実を受け入れる必要があると氏は言います。「みんなに好かれたい!」という欲求に打ち勝つことが大切で、一部の男性から「野心的すぎる、女性らしくない!」と思われても構う必要はないということです。
そして次に必要なのは、自分のキャリア人生において「何を成し遂げたいのか」を意識することだと氏は話しています。5年後、10年後にどうなっていたいのか、そのためには何をすべきかを考える。そして、(前述のように)支援してくれそうなベテラン男性を味方につけて、力を借りながら(でも)前進していくことが重要だということです。
地位が上の男性にとって、競合的立場にいない女性は「脅威」にはならないため、何かと支援してくれることが多いと氏は(改めて)指摘しています。「男社会」の土俵の中では、男性をうまく利用していくことに躊躇は要らない。もし敵対的な態度を取る男性がいたら、お茶やランチなどに誘い、細かなことにアドバイスを求め、何かを教えてもらうのも関係改善の一助になることが多いということです。
もちろん、中にはプロとしてナイスに対応しても、同じように接してくれない男性もいることでしょう。その場合は、「たとえナイスに接してもらえなくても、『花』のように、か弱く萎縮するつもりはない」ことを相手に知らせるのがいいと氏は言います。凛としてプライドを持って接すること。それこそが、一人前と認めさせる第一歩になるということでしょうか。
誰もがジェンダーにとらわれず、生きたいように生きられる社会が最も豊かで民主的な社会だとすれば、日本は男性にとってもそうなっていないと氏はしています。男性もジェンダー的プレッシャーにさらされ、社会から求められる期待に応えなければならないと無理を重ねている。なので、例え相手が男であれ女であれ、自分にとっての「脅威」と感じれば、排除に懸かるのは仕方のないことだというのが氏の認識です。
女性が成功を収めるには、男性だって、プレッシャーの中で頑張っていることを理解する必要があると氏は言います。もとより、組織において、そうした問題に対処する唯一の道は「多様化」というもの。性別やジェンダーを含め、さまざまな人々を温かく受け入れることで、最終的には「女性らしさ」や「男性らしさ」など、ジェンダー的モデルに伴うプレッシャーが自然になくなっていくことを肝に銘じる必要があると氏は考えています。
もちろん、結局それはジェンダーに限ったとこではない。「成功」や「幸せ」の尺度とは何かといった問題の多様化も、人々のプレッシャーを軽くするもの。男性にとって重要なのは、「権力を手放すことに不安を感じないようにすること」だとこの論考を結ぶフリューシュトゥック氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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