MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯31 フロンティアとは何か(その5)

2013年07月08日 | 日記・エッセイ・コラム

 6月14日、安倍内閣はアベノミクスの「第3の矢」成長戦略の柱となる「日本再興戦略JAPAN IS BACK」を閣議決定しました。政府はこの「戦略」において成長を実現するための3つの主要政策を掲げていますが、その柱のひとつが「新たなフロンティアを作り出す」だということです。

 具体的には、①知的立国・知財立国日本を再興すること、②経済連携を進め新興国の成長を取り込むこと、③世界のインフラ市場を官民で開拓すること、④クールジャパンの推進や訪日旅行者の受け入れ、対内直接投資の拡大を進めること…など。このために、政府は先端技術分野や新興国への投資の拡大、インフラの輸出、海外交流による外貨獲得などを進めていくとしています。

 これらの政策が目指すところが本当に「新しいフロンティア」なのかと問われるとなかなか苦しいところもありますが、地政学的なフロンティアが失われつつある現状を省みれば、日本の強みを生かせる「(分野としての)フロンティア」を探し出し、リソースを集中的に投資するのも必要な手段だとは思います。

 このように、今、経済の「フロンティア」と言えば、これから経済発展が見込まれる新興地域や成長が見込まれる産業分野を指していることは間違いありません。確実で高利回りなリターンが見込まれる投資先であり、商品の需要や購買力を有する市場ということです。

 さて、ここからが本題となります。それでは、これからのフロンティアは一体世界の何処にあるのでしょうか。

 古来、フロンティアは常に変貌する社会の「最前線」にありました。フロンティアは、古い生活を捨て去ろうという人々による、新しい生活への希望に満ちた世界です。未来への希望が変化への意欲を生み、変化への意欲が投資を生む。逆に言えば、どんなに商品の機能を謳っても、どんなに生活の利便性を語っても、意欲が停滞した社会からはフロンティアは生まれ得ないということです。

 私たちは「フロンティア」を具体的な市場としてとらえ、地理的な範囲や確実な投資先として考えがちです。投資という目先の目的に気を取られ、市場が本当は人々の心の中にあるもので、社会の空気や気持ちの持ち方一つで広がりも狭まりもするものだということをついつい忘れてしまいます。

 戦後の日本において、ハリウッド映画やテレビドラマから提供される圧倒的に豊かなアメリカの人々の生活ぶりや屈託のない明るさは、戦争に負けたという事実とも相まって、敗戦国の貧しい日本の国民を魅了しました。そしてそれが、戦後の日本における高度成長の大きな原動力になっていったということを忘れるわけにはいきません。

 新しい生活のイメージやスタイルを提示し、「あんな生活がしたい」「うらやましい」、こういう意識を喚起すること、これが最大の「フロンティアの創造」です。進取・自由・自立のフロンティア・スピリッツを国民が手に入れ、魅力的な未来を世界に向けて発信していくことが、経済再生にむけた最大の成長戦略であることを政府は思い出す必要があるのではないでしょうか。

 今なすべきことは、国民に対して、目指すべき社会の姿と国民生活を夢を持って語ることであり、共感を呼ぶ具体的なイメージを示すことであり、実現に向けた道筋を明確にすることだと私は思っています。

 資本主義社会の行き詰まり感の中で日本が新しいフロンティアを獲得していくためには、日本人自らがグローバル・スタンダードを作るのだ、世界に示すのだという精神的なブレイクスルーが求められているような気がします。日本人がこれまで持ち得なかった「フロンティア・スピリッツ」を身につけ、魅力的な社会や生活の姿を世界に示していく…こうした気概を持てれば、その時初めて新しいフロンティアが目の前に広がっていくような気がします。



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