MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯32 フロンティアとは何か(番外編)

2013年07月09日 | 日記・エッセイ・コラム

<番外編>

 「ウォークマン」はなぜ世界に受け入れられたのか?

 トランジスタラジオ、スーパーカブ、ウォークマン、ダットサンピックアップ、シビック、ジムニー、ニンテンドー、レクサス…。日本企業が生み出す商品が次々と世界に認められ、市場を席巻していった時代がありました。

 ジャパン・アズ・ナンバーワンとまで言われた日本の製造業は、いつ頃からこのように元気がなくなってしまったのでしょうか。

 いわゆる高度成長の時代が一服して以降ですら、日本の製造業は、オイルショックや円高、労働コストの上昇など、押し寄せてくるいくつものハードルを次々と乗り越え、世界に胸を張れるような魅力的な製品を世界の市場に提供し続けてきました。

 しかし、日本の政治はバブル崩壊以降くすぶっていた経済の立て直しに手間取り、特にこの10年間というもの、世界の国々の成長からただ一人取り残されてきた感があります。

 日本の十八番であった製造業も、こうした景気の低迷を受け北欧や韓国、シンガポール、中国などの企業に押され続け、抜群の品質と信頼性を誇ったメイド・イン・ジャパンはだんだん世界に振り向かれなくなってきています。テレビや白物などの電化製品、パソコン、スマートフォン、タブレット端末などのIT機器、自動車、オートバイなど、世界をうならせるような魅力的な製品が出てこくなったのは何故なのでしょうか。

 初めてトランジスタラジオを見たアメリカ人は、本当に驚いたと言います。こんな小さくてシンプルで性能がよく、しかもこの価格のラジオがあるのかと。日本の精密な技術と丁寧な仕事は、世界の人々の間に、あっと言う間にメイド・イン・ジャパンのイメージを作り上げてしまいました。

 ウオークマンはどうでしょう。音楽をイヤフォンで個人的に楽しむという発想は、そもそもアメリカ人にはなかったものです。ソニーは音楽を携帯して楽しむという新しい生活スタイルを世界に提案し、世界の若者は一つの文化としてこれを受け入れ、そして人々の音楽への接し方そのものを変えてしまうことになりました。

 自動車の排ガスを規制するマスキー法がアメリカ議会で成立した時、その達成は世界中の誰もが不可能だと考えていました。しかし日本の自動車産業はへこたれませんでした。技術者たちは集中してありとあらゆる努力を重ね、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら夢を現実へと近付けて行きました。シビックのCVCCエンジンはそうした中で開発され、大型車ばかりであったアメリカ国内で「小型車」という新たなカテゴリーを新たに成立させることに成功しました。

 広い大陸や未開の土地では、自動車の故障は文字通り命取りとなります。その点、日本のピックアプトラックは装備もシンプルで故障知らず。タフで軽くて小さいからどんな道でも入っていける。きちんと仕事をして「ナンボのもの」という、日本の道具に対する考え方を反映した抜群の信頼性が受け入れられ、合衆国ばかりでなくアフリカや南アメリカ、東南アジアやアラブの国々において、現地の人々の足として広く定着しています。

 さて、これら世界に受け入れられた魅力的な商品に共通するものは何でしょうか。

 価格や性能もさることながら、製品一つ一つが日本人らしい哲学をきちんと持っているということだと私は考えます。円高で輸出が低迷している、国際的な競争が激しくなっている…など輸出環境が悪化していることは確かだと思います。しかし、価格以外の魅力として、その商品からきちんと日本人の物の考え方を伝えることができれば、それが付加価値となって世界の中で十分受け入れられていく余地があるのではないでしょうか。

 クールジャパンは今や日本の国際戦略でもあります。日本発のファッションやアニメは何故受け入れられ、愛されているのか。それは価格の問題ではありません。

 日本の主要な企業が「グローバル企業」と呼ばれるようになってから既に久しいですが、商品開発の基準までグローバル・スタンダードに合わせてしまうことによって、かえって商品の魅力を失うことになってはいないか。外国の真似ではなく、メイド・イン・ジャパンと胸を張って言えるものをきちんと丁寧に作れているか。

 グローバル企業の皆さんに、是非、もう一度考えてみていただきたいと思っています。



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