MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2537 高齢者の暴走事故が頻発するのは日本だけ?

2024年02月02日 | 社会・経済

 改正された道路交通法が昨年5月に施行され、高齢運転者対策の強化として実車による運転技能検査や、安全運転サポート車などの「限定条件付免許」が導入されました。また、75歳以上の後期高齢者を対象とした「運転技能検査(実車試験)制度」が新たに導入され、75歳以上で違反歴がある人は実車による運転技能検査を受けなければならず、これに合格しないと免許の更新ができなくなったということです。

 私自身、まだまだ先の話としてあまり切迫感はありませんでしたが、70歳以上になると、誰もが運転免許証の更新時に高齢者講習を受けなければなりません。75歳以上では、これに認知機能検査が加わることになり、不安におののいている高齢者も多いことでしょう。

 因みに、認知症検査の検査内容は、16種類の絵を記憶し、何が描かれていたかを回答する「手がかり再生」と、検査時の年月日や曜日、時間などを答える「時間の見当識」とのこと。急に聞かれても「えっ?」「あれ?」となってしまいそうな人は、事前に練習しておいた方が良いかもしれません。

 高齢者の運転する自家用車等の暴走や交通事故の報道が後を絶たない昨今ですが、いくら日本が超高齢化しているとは言え、海外で同様の話をあまり聞かないのは妙なもの。不思議だなと思っていたところ、12月21日の経済情報サイト「PRESIDENT ONLINE」に医師で作家の和田秀樹氏が『なぜ欧米では「高齢者の暴走事故」が話題にならないのか…』と題する一文を寄せていたので、その一部を小欄に残しておきたいと思います。

 日本は高齢者に対する医療が非常に手厚い。ただ、多くの医者が勉強をせず高齢者の症状や治療法について知らないため、間違った方向の予防投薬をし続け高齢者の健康を大きく害しているのが現状だと、氏はこの論考に綴っています。

 血圧や血糖値を薬剤で管理しているせいで、さまざまな弊害が高齢者に生まれている。例えば、血圧や血糖値やナトリウム値を下げすぎると意識障害が起きる。意識障害はその他さまざまな薬の副作用でも起こるため、体は起きているのに頭が寝ぼけている状態の高齢者は多いということです。

 昨今、高齢者ドライバーの暴走事故が取りざたされるが、こうした事故が話題になっているのは、世界中で日本だけだと氏は話しています。欧米では高齢者の暴走事故は、ほとんど話題になっていない。ではそれは何故なのか?

 日本における大半の高齢者の暴走事故は、普段真面目に安全運転している人が、その日に限ってものすごいスピードを出し、信号無視を2つくらい無視して人を殺してしまうようなものが多いと氏は言います。多くの識者といわれる人たちは、これを「高齢による運転能力(認知能力)の低下だ」と結論付ける。しかし、高齢者専門の医者からすれば、明らかに意識障害によって引き起こされたと推測できるということです。

 実際、入院患者の10~30%にこの手の意識障害が起こり、高齢者の場合はもっと多いと氏はしています。もちろん家にいる時にも起こるので、車の運転中に起きたとしても不思議はない。しかし、現場をあまり知らない医者はそれを年齢のせいと片付け、せん妄の発現を疑わないということです。

 しっかりと原因を解明しないまま、メディアは「高齢者の暴走事故が起こるから、シニア世代になったら免許を取り上げろ」とだけ叫び続ける。多くの日本の医者は薬の副作用についてあまり真剣に考えていないので、投与された薬剤の副作用としての意識障害に目がいかないのだろうと氏は話しています。

 その大きな理由として考えられるのは、例え薬の副作用によって患者さんが亡くなったとしても医者が罪に問われることはないということ。もしも患者に副作用が出ても、製薬会社が罪に問われるだけで、「ガイドラインに従って処方しただけ」と言い逃れることができるということです。

 もちろん投薬は利益ももたらす。だから、高齢者への無責任な薬剤の投与が進むと氏はしています。昨今、社会保険料の負担額が大きな話題になっているが、高齢者が増えればそれだけ医療費も増大するのは当然のこと。それゆえ、「老い先短い高齢者にばかりお金を使っているのは無駄ではないのか」といった批判の声が上がり、高齢者医療を見直す動きに繋がっているということです。

 しかし敢えて言えば、高齢者の医療費が増えてしまう大きな要因は、過剰な薬剤費にあると氏はここで断じています。日本の医療費の約4割が薬剤費だといわれているが、恐らく高齢者はもっと高い割合だろう。そして、世界的に見ても日本は薬剤費の割合が非常に高い国だということです。

 高齢者医療の現場にいてわかるのは、余分な薬剤費を払うよりは、介護費用やリハビリ費用に回したほうが高齢者のQOLは上がるはずだし、ケアする側の負担も軽減できるということ。国民医療の問題点は、(それにもかかわらず)医者たちが手あたり次第に薬を処方するので、本当に必要な薬剤費がいくらなのかがわからなくなっていることだと氏はこの論考の最後に話しています。

 確かに私の周りでも、薬袋に入りきらないような多種多様の薬を処方され「薬だけでお腹がいっぱいになっちゃうよ」と笑う高齢者たちの姿をたくさん見かけます。

 現在、薬剤費は医療費の約4割を占めているが、現状を放置していたらこの比率が上がる可能性が極めて高い。このことは今後数十年間にわたって、日本社会にはびこる大きな病巣になってしまうだろうと話す和田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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