MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2622 膨らむ行政コストを誰が負担するのか

2024年08月17日 | 社会・経済

 高齢化の進行により65歳以上の高齢者の割合が「人口の21%」を超えた社会を「超高齢社会」と呼ぶのだそうです。人口の21%と言えば、高齢化社会の基準となる高齢化率7%を3倍にまで膨らませた数字。実は、日本の高齢化率はおよそ15年前の2010年に既に23%を超えており、とっくの昔に超高齢社会の仲間入りを果たしています。

 2020年に実施された直近の国政調査によれば、日本の総人口は約1億2,571万人のうち65歳以上の高齢者は3,619万人で、高齢化率は実に28.8%。さらに、うち1849万人は75歳以上の後期高齢者で、その数は65~74歳人口(1,747万人)を100万人以上も上回っています。

 長寿社会を悪く言うつもりはありませんが、この先の10年で彼らの多くが85歳以上となることを考えると、一体この日本がどういった社会になるのか想像もつきません。

 人類が初めて経験する超々高齢社会を私たちはどのように乗り切ればよいのか。1.5人の現役世代で1人高齢者を支えなければならない時代への対応を、世界が注目しているといっても過言ではないでしょう。

 そうした問題意識の下、「週刊プレイボーイ」誌(5月20日発売号)に作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が「超高齢社会で際限なく増える行政コストは誰が負担するのか?」と題する一文を掲載していたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 人類史上未曾有の超高齢社会を迎えた日本では、頼れる身寄りがいない一人暮らしの高齢者が急増している。政府はこうした状況を踏まえ、病院や施設に入る際の保証人や手続き、認知症患者の資産管理から葬儀や遺品整理に至るまで、高齢者個人を自治体が継続的に支援する制度を検討していると氏はこの論考に綴っています。(「身寄りなき老後 国が支援制度」「独居支援待ったなし」朝日新聞2024.5.7)

 厚労省の構想では、市町村や社会福祉協議会(社協)などの相談窓口に「コーディネーター」を配置し、法律相談や就活支援、財産管理、死後の残置物処分などを委託できる民間業者とつなぐ由。この場合、各種契約手続きは行政で支援するものの、業者との契約費用は相談者が負担することになるということです。

 氏によれば、もうひとつの事業は、市町村の委託・補助を受けた社協などが「介護保険などの手続き代行から金銭管理、緊急連絡先としての受託、死後対応などをパッケージで提供」するものとのこと。「国による補助で少額でも利用できるようにする」ということなので、そうなると当然、この「補助」は公費から支出されることになると氏は説明しています。

 もとより、現在でも自治体の負担は大きい。4月に公表された国の調査では、「銀行に同行して振込を支援(連携先との協働も含む)」は全体の20.3%、「救急車に同乗」は18.3%、「入院手続きを代行」は20.1%、「転居時のごみの処分」は28.4%が対応していると回答しているということです。

 厚労省のプランは、(これらに加え)さらに多くの高齢者支援業務を自治体に課そうというもの。実際、(調査報告書によれば)「役所や病院に提出する書類を自力で作ること自体が難しい高齢者」が、現在でも(施設入居者を除き)在宅だけで550万人いると推計されていると氏は話しています。

 また、厚労省によれば、2040年に認知症者が584万人に増え、前段階の軽度認知障害を加えると、65歳以上のおよそ3人に1人がなんらかの認知的な障害を抱えると推計されているということです。

 さて、岸田政権の「子育て支援金」が、現役世代が負担する社会保険料を財源にしていると批判されているが、奇妙なことに野党やメディアは代わりの財源については口をつぐんでいる。こうした中、原理的に考えれば超高齢社会の再分配は、①全員が負担する消費税の増税か、②マイナンバーで収入と資産を把握したうえで、高齢者世代のなかで富裕層から貧困層に分配する…の二つの方法しかないと氏は指摘しています。

 しかし、これまで消費税に頑強に反対し、マイナンバーを「監視社会の道具」として目の敵にしてきた人たちは、いまさら(こうした)「正論」を口にすることができないでいるというのがこの問題に対する氏の認識です。

 巷にあふれる高齢者に人間的な生活を送ってもらうためのお金や手間をどうするのか。「子育て支援金」と同じように、またもや現役世代に押し付けようというのか。こうして、自分たちの負担だけが増えていくと(合理的に)予想する若者の絶望は、ますます深まるばかりだと話す橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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