MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯863 発達障害児と偏食

2017年09月03日 | 日記・エッセイ・コラム


 4月5日のNHKの朝番組「おはよう日本」では、「今朝のクローズアップ」のコーナーで発達障害児の偏食の問題をレポートしていました。

 発達障害は、ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如・多動性障害)などを総称する言葉で、他者とのコミュニケーションがとりにくいのが特徴です。文部科学省の推計では、(可能性のある子どもも含め)小・中学生のおよそ15人に1人が発達障害に当たるとされているとされています。

 こうした児童生徒に対しては、現在、成長段階に応じた人間関係を作れるよう行政を中心に様々な支援が進められていますが、レポートによれば、これとは別に彼らが直面している大きな問題に、食べられるものが極端に少ないという「偏食」の存在があるということです。

 例えば、番組に紹介されていた広汎性発達障害の児童の場合、4歳から偏食が始まり、小学校入学時には、チーズ、コロッケ、納豆、ポテトサラダ以外は何も食べられなくなってしまい、小学5年生の今も体重は21kgしかありません。

 子供の発達障害に詳しい東京学芸大学教授の髙橋智(たかはし・さとる)氏によれば、発達障害の子どもたちの半数以上に(このような)何らかの偏食があるということです。

 発達障害の当事者137人に偏食について聞き取り調査を行った結果、発達障害の人には特有の「感覚過敏」などの感じ方があり、それが偏食に繋がっていると高橋氏は話しています。例えば、赤くておいしそうに見える「イチゴ」でも、表面にあるぶつぶつに気持ち悪さや怖さを感じる人が多くいるということです。

 また、サクサクした食感の衣を纏ったコロッケも、発達障害の人の中には、口の中を針で刺されているように感じられ、「痛くて食べられない」と訴える人が少なくないということです。

 このほか「食べ物をかむ音が耳障りでがまんできない」など、音や臭いについても同様の感覚過敏の傾向が確認され、食事がとれない原因となっている実態があると番組は説明しています。

 こうした発達障害の人特有の感じ方はなかなか周囲から理解されず、長い間「好き嫌い」や「わがまま」さらには「甘やかし」として認識されてきたと言ってもよいでしょう。しかし、これは(あくまで)生理学的な問題で、物の見え方や口腔内での感じ方などの身体的な問題が偏食を大きく規定していることがわかったと高橋氏は説明しています。

 さて、それでは私たちは、そうした発達障害の子どもたちの偏食にどう向き合っていけばよいのでしょうか?

 発達障害の子どもの中には、強いこだわりがあったり、経験したことがないものに極度の不安を感じる子も多くいるため、まずはこうした不安を取り除くことが大切だと番組では指摘されています。

 例えば、番組中で紹介された広島市の(発達障害児の)療育センターでは、一人一人の子どもの感覚の特性に合わせて給食の調理方法を変えており、固いものが食べられない子どもには食材をミキサーにかけたり、軟らかい舌触りが苦手な子どもには、具材を素揚げしてサクサクの食感で提供したりしています。さらに、イラストなどを使い「食べられる食材」だということを示して、子どもに安心感を与える工夫も重ねているということです。

 以前は、個人の嗜好として(無理やり)強制されるか(そのまま)放置されてきたものが、不安を取り除くための(現場における)こうした地道な工夫や努力によって、問題が解消されるケースも増えてきたと番組では紹介しています。

 いずれにしても、番組も指摘するように、発達障害の偏食の問題への取り組みは、全国的に見ればまだまだこれからといえるでしょう。

 文部科学省の調査によれば、全国の公立小中学校で、発達障害により「通級指導」を受けている児童・生徒は昨年初めて9万人を越え、この20年あまりで7倍以上に増えているとされています。

 発達障害児への対応は、基本的にありのままの彼ら、彼女らを受け入れるところから始まります。以前であれば「切り捨て」られていた個別の事情が、ひとつひとつ見つめなおされ、尊重される時代がやってきているということでしょう。

 そういう意味においてこの問題は、公教育として個別の状況への対応にどこまでコストを割けるかも含め、地域における十分な議論を必要とする分野と言えるかもしれません。




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