日本の生産年齢人口は、1995年に8726万人でピークを打った後、戦後のベビーブーマーの引退とともに減少に転じています。2020年には7509万人まで漸減してきており、さらに2032年には7000万人、2043年には6000万人、2062年には5000万人を割り込んで2070年には (ピーク時のほぼ半分の)4535万人まで減少すると予想されています。
生産年齢人口とは、15歳から64歳までの労働や経済のる中核を担う年齢層のこと。この世代の人口が少なくなるというのは、つまるところ労働力が不足することを意味し、国内総生産(GDP)の減少や経済成長への悪影響をもたらすことに繋がるのは必至です。
こうした生産年齢人口の縮小に対応し、日本の労働市場は女性や高齢者、そして外国人労働力の導入でそれを補ってきました。近年、パート就労を中心に女性の就業率は急速に上昇し、また定年退職後の高齢者も働くことは当たり前になっています。その一方で、日本人の労働観は大きく変化しつつあり、「働き方改革」の下で長時間労働は激減。多くの人々が、これまでよりも短い労働時間で働くようになっています。
こうした中、帝国データバンクが10月4日に発表したレポートによれば、従業員の退職や採用難、人件費高騰などを原因とする「人手不足倒産」の件数が、2024年度上半期(4-9月)で163件に達した由。年度として過去最多を大幅に更新した2023年度をさらに上回る、記録的なペースで急増しているということです。
もはや賃金を上げても人が集まらない。結果、「賃上げ原資」を確保できず、多くの企業が倒産の淵に立たされている現状をどう見るのか。10月11日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏が『人が全然足りない…人口激減ニッポンの「人手不足」が引き起こす「深刻な影響」』と題する論考を寄せているので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。
日本経済の低いパフォーマンスをもって、失われた数十年と揶揄されるようになり久しく時が経つ。物価も長く下落を続けるなど、多くの苦境を経験してきた日本経済だが、ここにきて経済の風向きは変わってきていると坂本氏はこの論考に記しています。
物価は上昇基調に転じ、日経平均株価も一時バブル期以来の高値を更新するなど日本経済は徐々にその自信を取り戻しつつあるように見える。しかし、より中長期的に経済データを確認していくと、労働者をとりまく環境や企業の経営行動の構造は、近年確かに変わってきているというのが氏の認識です。
データを分析していくと、足元の労働市場では人手不足の深刻化や賃金上昇の動きが広がっていることがわかる。さらに、それは2010年代半ば頃から顕在化していると氏は話しています。氏によれば、これには日本銀行による大規模金融緩和や政府の財政出動が影響している可能性が高いとのこと。しかし、それだけではなく、その根本には人口減少や高齢化といった人口動態の変化があるはずだというのが氏の指摘するところです。
これまでのデフレーションの時代において、企業が最も警戒してきたのは「需要不足」の深刻化だった。つまり、多くの企業が抱いていたのは、人口減少によって国内市場が縮小すれば、将来、企業間で顧客を奪い合うことになるのではないかという懸念だったと氏は言います。
しかし、いざ蓋を開けてみると、多くの地域や業種で需要不足が深刻化する展開にはならなかった。近年判明してきたのは、それとは逆。人口減少と少子高齢化が引き起こす経済現象は、医療・介護などを中心にサービス需要が豊富にあるにもかかわらず、それを提供する人手が足りなくなるという供給面の制約として表れたということです。
現在起きているこのような変化は、景気変動に伴う一過性の現象だけではなく、構造的なものである可能性が高いと氏はここで指摘しています。そして、そう考えれば(今後もその時々の景気循環による影響を受けながらも)しばらくの間、現在の経済のトレンドは続いていくことになる(だろう)ということです。
今後、少子高齢化が進む中で人手不足がさらに深刻化すれば、企業による人材獲得競争はますます活発化する。そうなれば、将来の日本経済においては、多くの人が予想する以上に、賃金が力強くかつ自律的に上昇していく局面を経験するはずだと氏は言います。
一方、その後は、労働市場における激しい競争にさらされる形で企業は利益を縮小させることになり、経営の厳しい企業は市場からの退出を余儀なくされる可能性が出て来る。将来の日本経済を展望すると、人口減少に伴う日本の経済規模の低迷や国際的なプレゼンスの低下は、ほぼ確実にやってくる未来だというのが氏の予想するところです。
しかし、生産性が低い企業が市場から退出し、人件費高騰に危機感を持った企業が生き残りをかけて経営改革に取り組めば、また違った未来も想定される。先進技術を活用した機械化や自動化の進展も相まって、労働生産性はむしろ上昇していく展開になることもあり得ると、氏はこの論考の最後に綴っています。
そうなれば実質賃金に関しても、名目賃金の上昇率が物価の上昇率を上回っていく形で、緩やかに上昇に向かう可能性が高いということ。日本企業の生き残りをかけた生産性向上に向けた取り組みが、日本経済の動向のカギを握っているということでしょう。
これから世界の多くの先進国が経験することになる人口減少経済。先行する日本経済の未来は、その「嚆矢」として大きな意味を持つと話す坂本氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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