新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まってまもなく1年。主要証券会社の専用口座を経由した個人の購入額は約11.9兆円となり、旧NISA時代の実績の4倍に膨らんだと、12月28日の日本経済新聞(「新NISA、資産形成の礎 旧制度の4倍12兆円流入 1~11月、長期志向で6割投信」2024.12.28)が伝えています。
記事によれば、相場の上がり下がりに関係なく安定して流入する家計のマネーは、既に日本株相場の支えになりつつある由。昨年後半半にかけては投資信託への投資配分が7割に増えるなど積み立て投資が根付くきっかけになっているということです。
昨年1月に始まった新NISAは、国内外の個別株と投資信託を購入できる①「成長投資枠」と、投信を積み立てる②「つみたて投資枠」を柱とするもの。投資上限額は年間360万円と、それまでのNISAと比較して3倍に拡大しました。非課税で運用できる期間が恒久化されたことも注目され、誰もが「個人投資家」となり長期の資産形成がしやすくなったとされています。
記事によれば、1~11月期の購入額は証券10社合計で既に11兆8994億円。前年実績の4倍に相当するとのことです。政府は「資産所得倍増プラン」で、NISA買い付け金額を5年間で約28兆円から約56兆円へ倍増させる目標を掲げており、1年目となる2024年の買い付け額は12兆円なので(折からのブームに乗って)目標を上回るペースで進んでいることになります。
さて、2001年に政府が「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げてから既に20年。長期にわたる取組みが功を奏してか、2024年6月末時点で、家計の金融資産に占めるリスク資産(株式等+投資信託)の割合は19.4%と2007年6月以来の最高値を記録しているようです。しかし、そもそもお金は使ってこそ幸せになれるというもの。儲かればいい、貯まればいい…というのでは何か「本末転倒」のような気もします。
年明けの1月9日、日本経済新聞の投稿欄「私見卓見」に、ファイナンシャルプランナーの齋藤岳志氏が『資産形成、お金の使い方も考えて』と題する一文を寄せているので、改めてその指摘を残しておきたいと思います。
運用でお金を殖やしたとしてもそれだけでは意味がない。その後の使い道を考えることが大切だと、氏はこの論考の冒頭に綴っています。
資産の運用・形成を行うことの最終目標は、お金を殖やした後、自分のウェルビーイング(心身の健康や幸福)を高めることに使えるかどうかということ。老後やインフレへの備えなどのように、生活を維持していくためという側面も資産運用を行う大切な動機だが、ただそれだけだと、(殖えてうれしい、安心だという満足感はあっても)残高が減るのが怖くて、肝心な「使う」という視点が漏れてしまうというのが氏の見解です。
確かに、蓄財をするなら「何歳までにいくらの残高を目指す」といった目標設定も大切なポイントです。だが、そこから一歩先の「その残高を達成した後、それをどう使っていくか」にまで思いをはせることが、殖やすこと以上に大切なだと氏は言います。
実際、フィナンシャルプランナーとしての氏は、資産残高の目標金額という視点をあまり重視していない由。それよりも大切にしたいと考えているのは、配当金、分配金、家賃のような定期的に収入をもたらしてくれる資産を保有し、毎月、お金が入ってくる仕組みをつくることだということです。
毎月お金が入ってくる安心感があることで、お金を使いやすく感じ、使うことで得られる幸福感を味わいやすくなる。しかし一方で、誰でも残高が減るのを見れば、使うのをためらってしまいかねないと氏は話しています。
だから、残高を減らさずに保ちながら、毎月入ってくるお金の流れをつくっておく方がよいというのが氏の指摘するところ。もちろん、お金を使うのは将来だけではなく、今を(充実させて)生きることも大切なこと。将来のために、生活費をきりつめて資産形成に手取りの多くを充てている人も多いが、「効果的な使い方ではない」と感じてしまうというのが氏の認識です。
現役の今だからこそ、年齢が若いうちだからこそ、お金を使って体験、経験できることは数多くある。そして、その経験は必ずや仕事やプライベートに生きてくる。そして、そうした経験を積み重ねることで、幸福感を増しながら充実した過ごし方ができるということです。
お金は貯めること自体が目的ではなく、使ってこそ生きるもの。将来の、そして今のお金の使い方と働き方を考え、形成された資産をその後どう使っていきたいかを(まずは)おおまかでもイメージしてみてはどうかと、氏はこの論考の最後に提案しています。
将来への意欲も増すし戦略的にもなれる。「イメージする」という行為自体が、(きっと)自分のウェルビーイングを高めることにつながっていくはずだと話す齋藤氏の指摘を、私も「さもありなん」と興味深く読んだところです。
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