MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1641 愛想をつかされるトランプ氏(その1)

2020年06月09日 | 国際・政治


 米国ミネアポリスで起きた白人警官による黒人暴行死事件に抗議するデモは、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、アトランタなどに広がり、海外でもロンドンやパリ、オーストラリアのブリスベーンなどの諸都市で人種差別への抗議が勢いを増していると報じられています。

 6月6日には米首都ワシントンでこれまでで最大規模となる数万人が参加する抗議デモが行われ、巨大な文字で「黒人の命は重要だ」と書かれたホワイトハウス近くの通りには路上を埋め尽くすほどの人々が集まったということです。

 一方、略奪や暴力などの動きは沈静化しつつあるとされています。ワシントンではおよそ5000人の州兵が動員され交通規制などの警戒態勢がとられましたが、デモ隊との目立った衝突は確認されていないということです。

 しかし、だからと言って抗議行動自体が終息に向かっているわけではなく、デモ隊が訴える内容も、医療や雇用、経済の格差の解消などに広がりを見せている。全米各都市に火が付いた今回の動きは(力で抑え込もうとするトランプ大統領への反発もあり)長期化する可能性も出てきたとメディアは伝えています。

 米国における人種差別の問題は、(もちろん)昨日、今日に始まったものではありません。それでは、なぜこのタイミングで抗議行動が大きなうねりのように広がったのか。

 通りを歩きながら様々に声を上げる彼等の抗議の奥底にあるものを、民族的な同質性の高い日本人が(実感として)理解するのはなかなか難しいかもしれません。

 6月6日の東洋経済ONLINEに、神戸情報大学大学院教授の山中俊之氏が「日本人に知ってほしい抗議デモの根深い真因」と題する論考を寄せているので、備忘のためにその内容を押さえておきたいと思います。

 この論考において山中氏は、今回のデモの拡大には従来の類似の事件と比較して3つの特徴があると指摘しています。

 そのひとつ目は、抗議デモの広がりが広範囲に及んでいること。

 アメリカの主要都市、ほぼすべての州において抗議デモが起きており、ここまで広範囲かつ大規模に特定の人種差別事件について抗議デモが起きたことは、氏の知るかぎり1960年代の公民権運動以来なかったということです。

 二つ目は、全体としては平和的な抗議デモとして広がっていること。

 これまでも、こうした抗議行動の際には暴動や略奪などの混乱が多数生まれてきたが、今回は多くの抗議デモ参加者は暴動や略奪に訴えることなく、例えば両手を挙げて非暴力を全面に出すなどして平和的に抗議デモを行っていると氏はしています。

 そして三つ目の特徴は、本来は社会の分断を抑えるべき立場であるドナルド・トランプ大統領が、抗議デモを敵視する姿勢を崩さず事態の悪化を招いていることだということです。

 ジェームズ・マティス前国防長官は、「ドナルド・トランプは私の人生で初めて、アメリカ国民を団結させようとせず、その素振りさえ見せない大統領だ。その代わりに、彼はアメリカを分断しようとしている」とのコメントを発表し、大統領の姿勢に真っ向から反対の意を示しました。

 実際、トランプ大統領が、事態の鎮圧のために「連邦軍の派遣も辞さない」と発言したことに対しては政権内部からの批判も強く、マーク・エスパー国防長官は軍を預かる責任者として「軍を動員するという選択肢は最後の手段とすべきで、極めて緊急性が高く、切迫した状況に限定する必要がある。今の状況はそれには当てはまらない」と述べたと報じられています。

 現職と元職の国防長官がそろって大統領を厳しく批判するのはまさに異例と言わざるを得ず、トランプ大統領の言動は、共和党内部、政権内部も分断しているというのが、今回のホワイトハウスの対応に関する山中氏の認識です。

 今回の抗議行動は、事件を起こした警官に対する単なる反発によるものではない。「このままでは息ができない」と声を振り絞る黒人市民に対し、膝をどけることをしない「権力」の存在に対する蓄積された怒りが形になったものということでしょう。

 しかし、ホワイトハウスの住人にはそうした声は届かなかった。(デモ参加者の暴発を恐れ)一時はホワイトハウスの地下室に避難していたと伝えられたトランプ大統領には、抗議の声が自らの地位や安全を脅かす呪いの言葉に聞こえたのかもしれません。

 行進する人々が口々に訴える一つ一つの言葉に何ら声に耳を傾けることなく、力で押さえつけることを厭わないトランプ大統領。その姿は、抗議行動を続ける人々の目に(膝にさらに力を込める)警官の姿とだぶって映ったのではないかと、改めて感じるところです。



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