MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1642 愛想をつかされるトランプ氏(その2)

2020年06月10日 | 国際・政治


 5月25日に米中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官から首を圧迫され、死亡した事件から既に2週間以上が過ぎようとしています。

 しかし、この事件に端を発し全米から世界の主要都市にまで広がった人種差別に反対する抗議行動は、未だ終息に向かう気配を見せていません。

 6月1日、トランプ大統領は首都ワシントンにおけるデモ参加者を「テロリスト」と呼び、彼らを制圧するために連邦軍の動員も辞さない考えを示しました。また、この日の夜には、首都ワシントンの上空には軍のヘリコプターを投入し、超低空飛行によるデモ隊への威嚇行動を行ったと報じられています。

 新型コロナウイルス感染への危険も収まらない米国で生じた今回の混乱に関し、6月6日の東洋経済ONLINEは、神戸情報大学大学院教授の山中俊之氏による「日本人に知ってほしい抗議デモの根深い真因」と題する論考を掲載しています。

 今回の抗議行動の背景に、長年続いてきた警察による黒人への暴力と米国における黒人差別への歴史があるのは誰もが認めるところです。

 さらに、抗議行動が全米に広がった理由にはコロナ禍による人々の失業・生活苦があり、それと同時に、黒人・白人双方の被害者意識があることを見過ごしてはならないと、山中氏はこの論考で指摘しています。

 「アメリカの黒人への人種差別はいまだ深刻なので、何とかしないといけない」と言った程度では、背景の一部をとらえたにすぎないと氏は言います。

 アメリカでは近年でも、黒人であるがゆえに警察官から不当な扱いを受ける事例が断続的に発生しており、収監され、場合によっては極刑すら科されてしまう恐怖、日常的に何らかの暴力を受ける可能性があるという恐怖は、今も黒人の間に依然として存在している。

 米国社会における人種差別の問題は単に就職などの社会生活におけるものではなく、暴力を受け命すら危険にさらされる、大きな人道問題であり続けているというのが氏の問題意識です。

 さらに、このような黒人の置かれた立場に対峙する、白人の労働者階級の被害者意識の視点を持つことも重要だと、氏はこの論考に記しています。

 なぜなら、これら(比較的低所得の)白人は2016年にトランプ大統領を生み出した原動力のひとつであり、現在のトランプ大統領の発言もこれらの支持層を意識したものになっているから。

 世界各国のあらゆる階層で寿命が延びている中で、アメリカで大学を卒業していない白人の寿命だけが短くなっているのは、「薬物」と「アルコール依存」が原因だとされている。今や白人労働者階層は、アメリカ国内で最も厭世的傾向にある社会集団だと考えられているということです。

 所得が上昇してきている黒人、アジア系の人々に対して、工場閉鎖などで自分たちの立場が悪化していることに苦しみ、薬物やアルコールに依存する生活に陥ってしまっている白人労働者階層。

 このような苦境にある白人労働者の一部は、アメリカ国内の有色人種や移民に対して厳しい意見を持つようになり、トランプ大統領を支持するようになると氏は説明しています。

 それでは、今回の黒人差別に対する抗議行動の広がりが、今後のアメリカや世界にどのような影響を与えることになるのか。

 山中氏はこの論考において、未曽有の広がりを見せた(今回の)平和的抗議デモを契機に、「反人種差別」の気運が高まる可能性を示唆しています。

 このような見解は、「楽観的すぎる」と批判されるかもしれないが、人種差別自体は既に否定されるべきものとして世界的に結論付けられていると氏はしています。

 すでに明確になっている反人種差別の大きな流れの中で、今回の事件が人種差別に対する問題意識をさらに高めていくことになるのではないかというのが氏の予想するところです。

 さらに、こうした動きは、トランプ大統領の再選への「黄色信号」として米国人の心の中に灯されるだろうと氏は見ています。

 大統領は自らの選挙戦略の観点から社会の分断をあおっているが、共和党支持者の一部を含むアメリカ人の多数は分断に対して反対する意識を持っている。

 特に今回のトランプ氏の対応は、共和党関係者からも強い批判が出ている。共和党の中でも反トランプ感情が高まっており、場合によってはアメリカ社会に大きな禍根を残すことにもなりかねないというのが山中氏の見解です。

 これまで、人々を分断することで自らの支持基盤をより強固なものにしてきたトランプ大統領ですが、切り捨てられるものの痛みや辛さを理解しようとしないその人間性に、(今度こそ)愛想をつかした米国民も多いかもしれません。

 人種・国境を超えた差別への抗議の動きに加え、国内を「戦場」と呼び、自国民に軍を向けることも厭わないトランプ大統領への反発が、(世界の人々の)新たな連帯に繋がる可能性に期待したいとするこの論考における山中氏の視点を、私も興味深く受け止めたところです。



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