MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2111 アフターピル 市販化に向けた動き

2022年03月15日 | ニュース


 緊急避妊薬(アフターピル)とは、性行為の後72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を防ぐ効果が期待できる薬です。世界の90か国以上の薬局で一般的な市販薬として提供されており、無防備な性行為から意図しない妊娠を(事後に)避けることのできるほとんど唯一の方法として各国の女性たちに利用されています。

 アフターピルは、内服することで排卵を止め妊娠自体を未然に防ぐ(あくまで「避妊」のための)薬なので、いわゆる「中絶」という定義には当てはまりません。最近では120時間以内でも高い避妊効果が期待できる最新のアフターピルも販売されているということで、他の避妊方法に失敗したり、性暴力の被害にあった場合に有効な避妊方法とされています。

 一方、日本では現状、こういたアフターピルを医師の処方箋なしで購入することはできません。アフターピルを手に入れるには医師の診察が必要で、必ず病院へ行かなければならないのが決まりです。また、現状ではアフターピルには健康保険が適応されないので、入手にはそれなりの費用も必要です。72時間アフターピルを処方してもらうには、診察料に薬代などを含めて約15000円~30000円かかるというのが相場とされています。

 なぜ、日本では誰もが簡単に入手できる市販薬として認められないのか。そこには、「男性が(アフターピルで避妊すればいいからと)コンドームなしの性行為を女性に強要する可能性がある」「日常の避妊方法として繰り返し使う女性が増える」などの様々な反対意見があるようです。

 2017年に厚生労働省の検討会で行われた議論では、アフターピルの薬局での販売は「時期尚早」として見送られました。(※参考 「#1005 アフターピルの市販化問題」2018.2.28) また2019年にはアフタープルのオンライン処方について議論されましたが、医師からは知識のない若い女性の悪用を懸念する声が上がるなど、前向きに進む流れではなかったとされています。

 こうして、しばらく進展が見えなかったアフターピルの市販化問題ですが、ここに来て大きな進展が見られたとの報道がありました。3月6日の日本経済新聞(Views「緊急避妊薬の市販、月内に論点整理」によれば、厚生労働省の有識者会議が3月中にも処方箋の不要な一般医薬品(=OTC化)に向けた課題とその対応策をまとめるということです。

 緊急避妊薬の販売から11年。厚生労働省の有識者会議はいよいよ、医師の処方箋なしの薬局販売(一般医薬品=OTC化)に向けた課題とその対応策の論点をまとめることになったと記事は記しています。

 それに先立つ2月には、添付文書の「使用上の注意」が改訂された。改訂されたのは2項目で、ともに薬のリスクを強調する注意喚起の記述を削除するものだったということです。緊急避妊薬をめぐっては2017年にOTC化要望が出たが、医師委員が過半を占める有識者会議で却下された。しかし、今回の2項目の削除でOTC化を否定する科学的根拠はすべてなくなったというのが記事の見解です。

 一方、日本において安全性に関する科学的な根拠以上にハードルとなっていたのが、(避妊知識や性的倫理感などの)非科学的な問題だと記事はしています。島村大・厚労政務官は市販化を要望してきた市民団体に対し「安全性に関する議論はかなり進んできたと認識しているが、避妊に関する教育も含めてOTC化は社会全体で考えるべき問題」と答えているということです。

 しかし、そうした国内での議論にも、既に変化の兆しは生まれていると記事は言います。2019年、政府は対面でなくオンラインでの処方を、薬剤師の研修会受講という条件付きで導入した。また、2020年の「男女共同参画基本計画」には、緊急避妊薬の処方箋なしの薬局販売の検討が明記されたということです。

 有識者会議の在り方も見直され、慎重な意見が大勢を占めていた医療者(医師)以外の委員を増員するとともに、OTC化の可否を決定する権限を(有識者会議から)なくしたと記事はしています。また、昨秋の会議では要望側の市民団体に初めて発言の機会を与えられ、5年前は反対で医師団体と同調した日本薬剤師会も前向きに転じているということです。

 しかしなお、議論への影響力が強い日本産婦人科医会の中には、「OTC化には中学校での性教育の充実が必要」(日本産婦人科医会)との意見が根強く残ると記事は指摘しています。

 人々の意識は、大きな社会の動きによって変わってくるもの。若い人たちの間では、変化はなおさらのことでしょう。そうした中、医療者として本当に守るべきものは何なのかを十分議論の上、有識者会議には適切な答えを出してほしいと記事を読んで私も改めて感じたところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿