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#2356 「coary」の過ち

2023年02月04日 | ニュース

 実業家の前澤友作氏が監修を手がけたことで注目されていた、シングルマザー限定で婚活を後押しするマッチングアプリ『コアリー(coary)』がサービス開始からわずか一日で配信を停止したことがわかったと、1月28日の各メディアが報じています。

 前澤氏は自身のTwitterを更新し、アプリの配信を停止した理由について「『シンママ(シングルマザー)にとって使いやすいマッチングアプリがあると嬉しい』というシンママの皆様の多くの声を受けて開発を進めてまいりましたが、懸念事項に対する対策や、一部の表現などに問題があったと反省しております」と話しているということです。

 「シンママをサポートする」として時間をかけて進められてきたプロジェクトだけに、この記事だけでは実際何があったのかはよくわかりませ。しかしどうやら、登録できる男性の条件が「シングルマザーとの恋愛を希望すること」となっていたり、子どもの性別や年齢を登録することになっていることから、子どもへの加害や暴力から逃げた妻を探すために利用されるのではないかといったリスクについてネットが炎上、配信停止を余儀なくされることになったとの話が伝わっています。

 前澤氏は「コアリー」の今後について、「コンセプトや機能・サービス内容を見直した上で、また改めて方針についてお知らせいたします」とツィートしているということですので、(まあ)「あきらめた…」ということではないのでしょう。

 コアリーのブランドメッセージは、「シングルなら、恋をするのは自由だ。でももし、子どもがいるという理由で踏みだせないのなら、踏みだせるきっかけを作りたい。」とのこと。しかしながら、シングルマザーの様々な事情を思えば、夢を現実にしていく作業は(前澤氏が考えるより)難しいことだったのかもしれません。

 翌1月29日の総合経済サイト「東洋経済ONLINE」に、桜美林大学准教授の西山 守氏が『前澤友作氏「シンママ婚活アプリ」炎上の重大盲点』と題する論考を寄せ、経緯や問題点などに触れているので参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 前澤友作氏によるシングルマザーを対象とした婚活・恋活マッチングアプリ「コアリー(coary)」が配信直後に炎上し、「#コアリーの配信停止を求めます」というハッシュタグでの批判が拡散、直後の配信停止に追い込まれた問題。一般には誹謗中傷や的外れな意見も多いが、今回に関しては欠陥がサービス提供側に伝わり、配信停止に至ったという点で、炎上が有効に機能した事例と言えると西山氏はこの論考で評価しています。

 炎上の火種は一体どこにあったのか?実際、公開を前提とした、ネットを使った情報のやり取りには、様々なリスクが常に付きまとうと氏はこの論考に記しています。

まずは、炎上の「中身」について。本件に関するSNS上の主な批判の論点は大きく5つ、①子どもへのリスク、②母親へのリスク、③男性ユーザーに関する意見、④アプリの趣旨やネーミングに対する批判、⑤前澤氏個人に対する批判…に分けられると氏はしています。

 中でも目立ったのは、①の「子どもに対する性的虐待」を懸念する声だったとのこと。子供の性別や年齢を見て「シングルマザーに理解のある男性のふりをして近づき、児童を性的虐待する男性が実際にいる」といった指摘が多かったということです。

 ②の「母親へのリスク」については、シングルである母親の「経済的困窮につけ込むような男性がやってくるリスク」「離婚相手からストーカーされるリスク」などへの懸念の声が多かったと氏は言います

 また、③の「男性ユーザー(がもたらすリスク)」に関しては、「(そもそも)まともな男性が登録するのか?」「母子を支える資質(経済力、包容力)を備えた男性がどれくらい参加するのか?」という意見が見られたということです。

 さて、確かに「出会いの機会」を見つけることが困難なシングルマザーを支援しようという前澤氏の理念は素晴らしいものだし、氏が批判を真摯に受けて迅速に対応を行った判断力、行動力は評価できる。しかし、「コアリー」のサービスが、多くの問題を露呈したことと、その問題がシングルマザー自身が抱える問題とも深く関わっていることは、しっかりと検証しておく必要があると西山氏はこの論考で指摘しています。

 世の中は善人ばかりが暮らしているわけではなく、(いくら志が高くても)性善説に立っているだけでは問題は解決しない。善意に欠けた人が起こす問題を十分に想定しなければ、逆に不幸を招き込む可能性もあるということです。

 シングルマザーの婚活をポジティブに捉えること自体は間違いないとしても、(それを商売にするには)そこには様々なリスクが隣り合わせていることに目を配る必要がある。今回の場合、特に欠落していたのが「子どもの目線」だと氏は話しています。

 子どもに関わるビジネスは、常に「子ども目線」から考えることが不可欠となる。しかし現実には、子どもの心の声を知り拾い上げるのは難しい。財布を握っているのが親だということもあって(どうしても)親側のニーズを重視しがちになるというのが氏の見解です。

 さて、西山氏も指摘するように、シングルマザーの恋愛や婚活で大きな影響を受ける「当事者」は、確かに大人の二人だけではありません。逆に言えば、ものを言えない(弱い立場の)子どもたちに代わって周りの大人たちが彼ら彼女らの目線に立ち、ものを考えてあげる必要があるということでしょう。

 私事になりますが、実は今を去ること20年以上も前、(ネット社会にSNSなどというものがほとんど知られていなかった時分に)ネット上で小規模なイベント情報を興味のある不特定多数に知らせたり、趣味の仲間を集めるための無料の仕組みを作ろうと、あれこれトライしていた時期がありました。

 自由に書き込める「掲示板」のようなものを作って試験的に立ち上げてみたのですが、実際にそこに集まってくるのは「子役」ばかりを集めるアングラ劇団や撮影会の少女モデルを募集する写真サークルなど、何やら怪しげな団体ばかりでがっかりしたのを思い出しました。

 さてはさておき、シングルマザーの結婚は、彼女の子どもにとっても(人生を左右すような)大きな問題であることは論を待ちません。そうした視点に立って、「我々は皆、以前は子どもであったにも関わらず、ビジネスを行う側に立ってしまうと、とたんに子どもの気持ちを汲み取ることが難しくなってしまうのだ」と話すこの論考における西山氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。

 



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