中国の権威主義体制を強める習近平国家主席が、ここ数年様々な式典において口にしているのが「中華民族の偉大な復興」という言葉。これは、「中華民族=中国人」の統合による、近代的な国民国家の建設と国際社会における覇権の確立を意味していると言えるでしょう。
しかし、中国国内に目を向ければ経済成長の鈍化は明らかで経済的格差の固定化も進む中、社会矛盾が増大する一方で共産党指導部による独善的かつ尊大な態度には国際社会からの批判も高まっているように見受けられます。
特に、ここ1~2年の間に顕在化しているのが中国経済停滞の影響です。鄧小平によって1978年に開始された改革開放政策に端を発し長年にわたって急成長を遂げてきた中国経済。しかしここに来て、一人っ子政策の影響などから中国の労働市場は急速に縮小へと向かい、人口の維持すら危機に直面している状況です。
農地や水、電気などの使用可能な主要資源の不足も深刻化している一方で、(ただでさえ教条的・閉鎖的であった)政治体制はさらに全体主義的なものに変化しつつあり、成長に必要な創造性を阻害していているという指摘も大きくなっているようです。
2008年のリーマンショック以降、世界経済を先頭に立って牽引してきた中国経済の衰退は、日本ばかりでなく世界中の市場にマイナスの影響を与えることは勿論のこと。さらに懸念されるのが中国の社会・経済の混乱が国外に向かい、(例えば台湾統一に向けた軍事的な圧力を高めるなど)中国当局が攻撃的な姿勢を強めることと言えるでしょう。
国際社会にとって様々なリスク要因となりつつある中国を、私たちはどのようにコントロールしていけばよいのか。中国を巡る現在の状況に関し、8月25日の日本経済新聞(経済コラム「大機小機」)に『中国の衰退をどう管理するか』と題する一文が掲載されていたので、参考までに概要を残しておきたと思います。
中国の習近平国家主席は、折に触れ3つの罠(わな)に警戒せよと言ってきた。それは、①先進国になれずに成長が滞る「中所得国の罠」、②政権が信用を失う「タキトゥスの罠」、そして③覇権国と台頭する新興国が戦火を交える「トゥキディデスの罠」だと、コラムはその冒頭に綴っています。
1100万人を超えた今季中国の大学卒業者の中では、空前の就職難などを受けSNSにゾンビを装った自身の画像を投稿するのが流行りとのこと。そうした中、中国の卒業シーズンに当たる7月の若年(16~24歳)失業率の発表が突然、停止されたとコラムはしています。
その前月、6月の失業率は過去最高の21.3%だった。中国国家統計局は「測定方法を改善する必要がある」と説明したが、こうした状況に米ニューヨーク市立大学のクルーグマン教授は、(デフレ懸念で中国経済の「日本化」が取り沙汰される中)「中国は日本のようにはならない。もっと悪くなるだろう」と話しているということです。
確かに、日本のバブル期は5年足らず。一方、中国はこの20年近く官民合わせた総投資が国内総生産(GDP)の4割を超え、エンジンを吹かせっぱなしだった。(そう考えれば)バブル崩壊のマグニチュードは、日本の比ではないかもしれないとコラムはしています。
クルーグマン教授は人口減少も勘案し、中国が「中所得国の罠」に落ちたようだと話しているとのこと。実際、2022年の合計特殊出生率は1.09で日本よりも低く、人口置換水準の約半分に過ぎなかったということです。
また、中国は古代ローマの歴史家の言説に由来する罠(=トゥキディデスの罠)にも落ちたようだとコラムはしています。信用をなくした政権の言動は、真偽・善悪にかかわらず全て悪い方にとられるというのが筆者の指摘するところです。
失業率の突然の発表停止には、SNSなどから批判が相次いだ。洪水災害でも政府の防災・救援体制の不備、不手際が指摘された。強権的な「ゼロコロナ政策」以降、政権は人民に疎まれているようにも映るということです。
2001年の世界貿易機関(WTO)加盟から20年以上の歳月を経て、中国のGDPは十数倍になり世界6位から2位に駆け上がった。21世紀の最初の20年は「中国台頭の時代」だったが、しかし今、その幕は下りようとしているとコラムは記しています。
バイデン米大統領は現状に関し、中国経済を時限爆弾に例え「悪い人々が問題を抱えると悪事を働く」と述べたということです。もちろん念頭にあるのは、台湾侵攻などの世界を巻き込む可能性の高い極めて危険なリスクであるであることは言うまでもありません。
乱暴で幼くそれゆえ危険な迷える中国を、このまま放置しておくわけにはいかないということでしょうか。世界は「中国の衰退を管理する」という難題を抱え込んだと結ばれたコラムの指摘を、私も(それなりの)危機感を持って受け止めたところです。
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