故ジャニー喜多川元社長による性加害問題を巡り、メディアやCMスポンサー企業などを巻き込んで揺れるジャニーズ事務所。注目された9月7日の会見では、藤島ジュリー景子社長の後任として少年隊の東山紀之が新社長に就任することなどが発表されましたが、「ジャニーズ事務所」の社名はそのまま、代表取締役として残るジュリー氏の持ち株も100%のままで経営が続くとあって、メディアを中心に様々な議論を呼んでいました。
もとより、(一般に「芸能界」と呼ばれる)エンターテイメント業界の(籠の中の)問題であり、一般の視聴者には遠い世界の話と受け止める向きも多いと思います。しかし、この問題の背後にある大手芸能事務所とメディアとの関係や、「長いものに巻かれる」業界の事なかれ体質に、「そんな時代じゃないだろう」と半ばあきれる声も聞こえてくるところです。
一方、こうした世論の反発を受け、ジャニーズ事務所は9月19日、公式サイトで社名変更を検討していることを発表しました。「今後の会社運営に関するご報告」として、「弊社取締役会を開催し、藤島が保有する株式の取り扱い、被害補償の具体的方策、社名変更、所属タレント及び社員の将来など、今後の会社運営に関わる大きな方向性についてあらゆる角度から議論を行い、向かうべき方針を確認いたしました」と記者会見からの方針変更を公表しています。
今年3月に英BBCが放映したドキュメンタリー番組に端を発し、日本の社会全体に大きな反響を及ぼしたこの問題。指摘は日本国内にとどまらず、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は日本で調査を実施し、ダミロラ・オラウィ議長が「明確なスケジュールによる透明で正当な調査」を行うよう政府に求めたと伝えられています。
そこで改めて思い知らされるのは、この問題が、極東の島国で人気をかもしている芸能事務所で(たまたま)起きたスキャンダルなどではないということ。(金に目がくらんだ)大人たちが10代半ばの子どもたちの人権を長年にわたり蹂躙してきた、「組織的」な犯罪だということでしょう。
例えば、絶対的な権力を持つ大人による性被害を受けたのが、少年たちではなく10代半ばの少女たちであったらどうなのか、例えばその環境が「芸能事務所」ではなく看護学校の寮や女子高の寄宿舎だったどうなのか。光り輝く芸能界を目指す男性アイドルの卵たちという特殊な環境に、事件を見る我々の眼は濁らされているのかもしれないと強く感じるところです。
そんなことを考えていた折、政治経済評論家の古賀茂明氏が9月19日の情報サイト「AERA dot.」に、『ジャニー喜多川氏の行為は「レイプ犯罪」 テレビ局も損害賠償金を負担し責任者は辞職せよ』と題する厳しい批判を寄せているので、参考までにその概要を小欄にも残しておきたいと思います。
ジャニー喜多川による数百人に対する性加害。そのかなりの部分が未成年者へのレイプという人類史上稀に見る凶悪犯罪はそれ自体驚きだが、この事件をめぐる日本メディアの状況を知れば、世界の人々は二度驚くことになるだろうと古賀氏はこの論考の冒頭に綴っています。
そもそも、この犯罪の凶悪性、悪質性が日本では明確に認識されていないきらいがあると氏はここで指摘しています。特に指摘すべき点は次の4つとのこと。
第一に、日本のメディアが好んで使う「性加害」という言葉。「性加害」と聞けば必ずしも暴行や虐待とは直結しないが、実態は「性的暴行」や「性的虐待」である。ジャニー氏の行為は男性に対する「強姦罪」であり、いわゆる「レイプ」犯罪だと氏は話しています。これが数百人の少女に対する犯行だとしたら、世論の反応はどうであろうか。人々の憤りは烈火の如く燃え広がり、問答無用でジャニーズ事務所解体!となっていたはずだというのが氏の見解です。
第二に、犯罪の対象が未成年者であること。自分や身近な人の子供がレイプされることを想像してほしい。ますます「許せない」となるだろうと古賀氏は話しています。
そして第三に、一度ではなく、同じ子供に対して繰り返しレイプが行われていたということ。たった一度でも取り返しのつかない心の傷を負わせるのに、それを何度も行っていた。こう行為は精神的殺人と呼ぶべきもので、総件数数百件というのは驚きの犯罪規模だということです。
第四に、優越的立場を悪用した卑劣な犯罪だということだと氏は言います。物理的な暴力を使わなくても、抵抗する術を知らない子供を「手籠」にした。これは暴力以上に卑劣な手段であって、いくら憎んでも憎み足りないと感じる人が多いはずだということです。
これだけの犯罪を行った人間に対しては、もしも生きていれば最高刑が科されただろうとはしています。殺人は犯していないので死刑にはならないだろうが、複数の犯罪を犯しているので、不同意性交罪の加重刑の最高刑である30年の拘禁刑にすべき事案だったはず。こうしたことを確認した上で、9月7日のジャニーズ事務所の記者会見を振り返ってみれば、(普通の感覚であれば)ほとんどの人が「ふざけるな!」と感じるのではないかということです。
そして、重要なのは罪はジャニー氏本人やジャニーズ事務所にばかりあるのではないということ。次に問題となるのは、テレビ局だと古賀氏はこの論考を続けています。
多くの識者が指摘するとおり、テレビ局は問題を知りながら目を瞑り、ジャニーズ事務所に忖度して一切問題の真相を明らかにしようとすることなく、裁判でジャニー喜多川が敗訴した時でさえ報道を抑え、多くのジャニーズタレントを使い続けた。そんなテレビは、完全な共犯者だというのが古賀氏の認識です。
(反省する気があるのであれば)、テレビ局は過去に遡って、報道のタイミングがあった時になぜそれをしなかったかの事実関係について詳細な検証を行うべきだと氏は言います。
その検証では、誰がいつどのようにして報道を抑えたのかを具体的に明らかにしなければならない。あるいは、不作為の責任も追及する必要がある。そして、それらに対する責任者の処分を行うことが必須だというのが氏の指摘するところです。
今回の問題について、テレビ局は非常に軽く考えているようだが、それは、これが過去の話だと勝手に思い込んでいるからだろうと、氏は最後に話しています。関係者は皆、「過去のことは謝ります、将来については気をつけます」で済むと思っているのではないか。しかし、残念なことにこれは過去の(終わった)事件などではなく、現在(進行形の)の問題であるのだとこの論考を結ぶ古賀氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます