MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1647 バイデン氏が大統領になったら

2020年06月15日 | 国際・政治


 前回のトランプ、クリントンの一騎打ちと比べれば、新型コロナウイルスの陰に隠れてなんだか印象も薄くなった観のある米国の大統領選挙。

 最終的に候補者となった共和党の現職ドナルド・トランプ大統領と民主党のジョー・バイデン元副大統領が雌雄を決する11月3日の投票日までのカレンダーは、気が付けば残り5枚ほどとなりました。

 3年前の就任時以来、その言いたい放題、やりたい放題の言動で話題に事欠かなかったトランプ大統領に比べ、日本におけるバイデン候補の知名度は決して高いものとは言えません。

 もっとも、米国内においても、バイデン候補はトランプ大統領から「居眠りジョー」(Sleepy Joe Biden)などと散々の言われようでしたが、最近の世論調査を見ると「バイデン優勢、トランプ自滅」の数字がいろいろと出てくるようになっています。

 トランプ大統領がアメリカ主要テレビ局の中で最も信頼する右派系のフォックス・ニュースが翌21日発表した世論調査結果(5月17-20日実施)でも、「両候補のうちどちらに投票するか」について聞いたところ、「バイデン」と回答した人は48%、一方「トランプ」と回答した人は40%。

 トランプ政権への支持率でも、「支持」が44%に対し、「不支持」は54%で、前回調査(4月4―7日)と比べ「不支持」は5%程度増加しているということです。

 こうした状況を受け、5月29日の東洋経済ONLINEでは、同誌コラムニストの中村稔氏が「バイデン大統領ならアメリカはどう変わるか」という一足早いレポートを掲載しています。

 今回の選挙に関してトランプ氏にとっての最大の打撃は、史上最長の拡大が続いていた景気がコロナ禍で奈落の底へ沈んだことだと中村氏はこの記事に記しています。

 米国議会予算局の予想では、4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は年率換算でマイナス約40%。失業率は大恐慌期並みの20%超えが視野に入り、半分強を戻したとはいえ株価も大きく下落している。

 投票日までまだ5カ月あり情勢を判断するには時期尚早だが、経済再開に前のめりになっているトランプ氏にとって、ここでもしも感染第2波が来れば景気と株価の両面から致命傷となりかねないというのが氏の見解です。

 それでは、もしもバイデン氏がこのまま優勢を保って本選挙で勝利すれば、アメリカの政治・経済はどのように変わるのか。

 オバマ前大統領の「後継者」を自認するバイデン氏が大統領となれば、「基本的にはオバマ時代の政策に戻る。トランプ政権が覆したものを復元する」と中村氏は説明しています。

 トランプ政権が厳格化した移民政策は柔軟化され、銃規制は強化される。米国が一方的に離脱した「イラン核合意」への復帰が予想されるほか、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」(同2020年11月に離脱予定)への再参加も見込まれるということです。

 特に環境問題に関しては、バイデン氏は「クリーンエネルギー革命」を標榜し、再生可能エネルギーへの投資拡大により温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにすることを公約している。2021年からの10年間で1.7兆ドル(約180兆円)のクリーンエネルギーへの投資を計画し、財源にはトランプ減税の撤回やタックスヘイブンの優遇措置削減、化石燃料への補助金撤廃などを充てる方針だということです。

 さらに、新型コロナの感染拡大もあって選挙の一大争点になっているのがヘルスケア改革だと中村氏は指摘しています。

 2010年に成立し2014年から導入された医療保険制度改革法、いわゆる「オバマケア」についてバイデン氏は、その継続・拡充を公約に掲げている。「メディケア」や「メディケイド」などの公的保険制度の対象拡大に加え、中所得層に対する民間保険料の税額控除増大によって医療負担軽減を図る方針だということです。

 民主党候補者の座をバイデン氏と争った急進左派のサンダース氏らは、公的医療保険を全世代に広げる「メディケア・フォー・オール(国民皆保険)」を訴えていた。バイデン氏は彼らの支持も取り付けるべく、今の制度を手直しする現実的な策を打ち出すことになるだろうというのが氏の予想するところです。

 アメリカでは大恐慌期からケインズ主義、大きな政府の時代が約半世紀にわたって続き、1980年代の共和党ロナルド・レーガン政権期から新自由主義、小さな政府の時代に転換した。そして、リーマンショックを一つの契機として、アメリカは再び大きな政府にパラダイムシフトした印象が強いと中村氏はこの論考に綴っています。

 そうした時代背景の下で成長してきたミレニアル世代(1981~1996年生まれ)以下の若年層が、今回の大統領選で初めてベビーブーマー世代などを上回る有権者最大のブロックとなる。だからこそ、穏健派のバイデン氏としても、政策面や人事面などで急進左派に歩み寄らざるをえなくなっているというのが氏の見解です。

 前回の大統領選では、民主党候補のヒラリー・クリントン元国務長官がサンダース支持層の取り込みに失敗し、トランプ氏に敗れる番狂わせを演じた。なので、バイデン氏は同じ轍を踏まないためにも、本選挙に向けて「左旋回」を強める可能性があると中村氏はしています。

 バイデン氏が政権を取れば、米国は(WHOやWTOなどの国際機関に背を向けるトランプ氏とは違い)基本的には国際協調路線に戻るとしても、オバマ時代とは変化が予想される。拠出金など「資金分担」に絡むことについては見直し機運が高まりそうだという指摘もあります。

 対中関係においても、オバマ時代に比べれば強硬になる可能性が十分に考えられる。もともと民主党は中国に融和的と見られるが、中国が経済的にも軍事的にも台頭するにつれ、世論が大きく変化していることが背景にあるということです。

 人権問題に関心の高いリベラルな民主党支持者たちが、香港の混乱に象徴される人権問題を通じて中国批判を強めることも想定されることからも、米中関係は基本的に対立が続くというのが氏の予想するところです。

 折しも、米国の主要都市において黒人差別への抗議行動が激化しトランプ政権の足元は大きく揺れています。前回の大統領選挙では比較的中立(もしくは、ややトランプより)とされた黒人有権者の支持に、彼はもはや期待することはできないでしょう。

 新型コロナウイルスへの感染拡大の第2波、第3波の到来も予想される中、この秋に迫った大統領選挙の行方はどこに向かうのか。経済的にも文化的にも結びつきの強い日本としては、これから先も目の離せない日々が続きそうです。



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