MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯858 年金制度への信頼感(その1)

2017年08月28日 | 社会・経済


 6月27日の日本経済新聞では、「年金信頼回復の代償 免除多用で制度空洞化」と題する記事において、「消えた年金問題」に端を発する信頼失墜からの回復を目指す国民年金改革の実態について論じています。

 現在、国民年金の納付率は上昇基調にあり、実際2015年度の納付率は63.4%と、過去最低だった2011年度の58.6%と比べると5ポイント程度の回復を示しているということです。

 しかし、この数字にはある種の「裏」があると記事は指摘しています。

 記事によれば、国民年金の加入者(1号被保険者)は2016年3月末時点で1668万人。このうち低所得を理由に保険料の支払いを免除されている人の割合が、総数の3分の1を超える34.5%を占めているということです。

 詳細を見ていくと、これら免除者の割合は5年間で6ポイント上昇し過去最高となっている。納付率は免除者を分母から除くため、未納者が免除者に変わることで何もしなくとも数値は自然と上がるという指摘です。

 当然のことながら、たとえ保険料を40年間支払わなくても免除者には年間39万円の年金が給付されます。これはさながら、世論の批判を回避し制度への信頼を獲得するために、未納となる恐れのある芽を予め摘んでいるという構図にも見えます。

 免除制度自体は、やむなく保険料を払えない人を救う手段として必要であることは理解できても、免除者の獲得が組織の目標になっているような状況があるとすれば、必要のない人にも免除を勧めているという疑念は拭いきれないと記事は指摘しています。

 記事によれば、実際、厚労省の2002年の調査では、所得がなくても42.5%の人が保険料を納めていたということです。ところが2014年の調査ではこの割合が22.7%に低下。所得が少なくても資産を取り崩すなどしてやり繰りしていた人たちが、新たに「払わない」という選択をした可能性が浮かぶとしています。

 免除者を含めた被保険者全体でみると、実際に納付した人の割合は2015年度で(実に)半数を大きく下回る40.7%に過ぎず、5年前より1.4ポイント低下しているということです。このような数字を見る限り、確かに「信頼回復」の裏側で制度の空洞化が進んでいると指摘されても(ある意味)仕方がない状況と言えるかも知れません。

 こうしたことから、厚生労働省では、今年4月から保険料を強制徴収する基準を「年間所得350万円で未納月数7カ月以上」から「300万円で未納月数13カ月以上」に引き下げるなど、保険料の徴収の厳格化に取り組んでいます。督促する文書の送付や戸別訪問を行っても支払いに応じない場合には、必要に応じ財産等を差し押さえなどの滞納処分を行うということです。

 強制徴収の基準については、2015年度まで所得400万円以上だったものを2016年度に350万円に変えたばかりということですから、2年続けて強制徴収の対象が広げられたことになります。厚労省としては、悪質な保険料逃れを見過ごさない姿勢を強めることで、毎年の保険料上昇で国民にくすぶる年金への不満を和らげたい考えだと指摘されています。

 さらに厚生労働省では、厚生年金に加入していない企業への加入促進策を本年度から(強力に)進めているということです。

 現在、厚生年金は法人や従業員5人以上の個人事業主は加入義務があります。厚生年金の場合保険料は労使折半で支払う必要がありますが、保険料を逃れるために意図的に加入していない事業所は(今年2月末の時点で)全国に52万カ所に及ぶと厚生労働省は試算しています。

 零細企業に勤める従業を国民年金から厚生年金に適切に移行させ、国民年金の負担を減らしていこうとするこの試み。例えば、自治体に新規の事業許可を申請する際、厚生年金加入の有無を確認し、未加入なら厚労省に通報する仕組みを拡充したり、対象業種に飲食や理容などを加えるなど厚労省の所管以外の業種にも拡大を目指すとされています。

 さて、超少子高齢化の伸展により、特に若い世代から不安視されることの多い国民年金の先行きですが、世代や地域によって大きな格差のある現状を考えれば、未納者や所得の状況を的確に把握し納付率を上昇させる余地は、まだまだ大きいと言えるかもしれません。

 制度の安定は「信頼」の二文字から始まることを、厚生労働省や年金機構の職員は改めて心に刻む必要がありそうです。




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