MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯859 年金制度への信頼感(その2)

2017年08月29日 | 社会・経済


 社会の超少子高齢化が進む中にあって、国民皆年金制度の維持は(名実ともに)高齢者の生活の最後の拠り所と言えるかもしれません。

 しかしその一方で、制度のベースを構成する国民年金の保険料の納付率が(信じられないようなレベルまで)低下していることで、特に若い世代において制度への信頼が揺らいでいるとの指摘も無視するわけにはいきません。

 厚生労働省HPによれば、国民年金保険料の納付率は直近の2017年5月26日現在で64.1%とされています。この「納付率」は、直近3年間では50%後半から70%台前半で推移していることからも、国民年金加入者(1号被保険者)の約4割が実際には保険料を払っていないことがわかります。

 納付率全体が低いことももちろん問題ですが、さらに深刻なのは、若い世代ほど納付率が低くなっている点にあるかもしれません。例えば、2015年度の平均納付率は63.39%ですが、25~29歳では53.47%、30~34歳では54.72%と、これらの世代に限ってみれば約半数が保険料を支払っていない状況にあることが判ります。

 当然、こうした状態が続けば、納付率は将来さらに低下していくことが予想されます。 

 普通に考えれば、納付率が5割を切るような事態となれば、給付水準を半分にするか保険料を2倍に上げるかしなければ制度は維持できないはずなのですが、当事者である厚生労働省も国民年金機構も、あまり慌てていないように見えるのは一体なぜなのでしょうか。

 フィナンシャル・プランナーの佐々木愛子氏は、その理由を「国民年金」を支える層の「厚み」に見ています。(ZUU online 2017.6.4)

 佐々木氏によれば、2016年現在、国内における公的保険制度(国民年金、厚生年金、共済年金など)の加入対象者は、合計して6729万人を数えるということです。

 うち、24ヶ月以上にわたり保険料の支払いが未納となっている「未納者」は206万人。加えて本来加入しなければいけないが、制度そのものに加入していない「未加入者」が19万人存在している。

 つまり、「未納者」「未加入者」の合計は225万人で全加入者のうちの3.3%に過ぎず、逆に言えば、全体の97%近くが年金保険料を「納付」している実態を示しているということです。

 それではなぜ、多くのメディアなどには、「支払いを滞納している人が多い」「4割近い人が未納だ」などという批判が溢れているのでしょうか。

 佐々木氏によれば、公的年金保険制度の対象者は、第1号被保険者(自営業者およびその配偶者)、第2号被保険者(サラリーマン・公務員・私立学校教職員)、第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者で一定所得未満の者)の3つに分けられるということです。

 こうした枠組みの中で、一般的に「国民年金保険の加入者」と言われている人たちは、第1号被保険者と第3号被保険者に分類されます。

 一方、第2号被保険者の加入する「厚生年金保険(第3号被保険者の国民年金保険料を含む)」は、被保険者の給料天引きと企業からの労使折半で企業から支払いが行われるため、企業が支払いを滞納していない限り未納はありえない仕組みになっています。

 そこで、残るは第1号被保険者ということです。

 この第1号被保険者は、個人の口座引き落としもしくは振込票での支払いになるため、未納が発生する環境にあると佐々木氏は指摘しています。そしてそのデータが、前述の「国民年金保険料の納付率」だということです。

 さて、(給付水準が適切かどうかは別にして)国民年金を支えている公的年金制度全体でみれば、保険料はしっかり確保されている。未納者がわずか3%強であることを考えれば、少なくとも(公的年金が)「制度破綻」を起こす状況にはないと佐々木氏は説明しています。

 政権野党や金融商品や保険商品を販売する企業などは(メディアなどを使って)人々の老後の不安を煽るかもしれないが、公的年金の制度自体は意外にタフにできているという指摘です。

 一方、こうした現実は言うまでもなく、厚生年金や共済年金に加入するサラリーマン(や彼らを雇用する企業)が、基礎年金制度を通じて(自営業者らが加入する)国民年金を支えていることを意味しています。

 1985年の年金制度改革において、公的年金制度は、加入者に共通に支給される定額部分(1階部分)である基礎年金と、2階部分にあたる(賃金報酬に比例する)老齢厚生年金と退職共済年金の2階建てとなりました。

 さらに、国民年金は全ての国民に共通する基礎年金に統一され、民間企業の被用者や公務員などの第2号被保険者や、第2号被保険者の扶養配偶者(第3号被保険者)にも加入の義務が生じ、その裾野は大幅に広がることとなりました。

 そういう視点で見れば(年金制度を一体化する)この制度改革は、一般的には、就業構造や産業構造の変化に影響されない長期に安定した制度の構築のために行われたとされていますが、換言すれば、将来的に破たんの可能性が強かった国民年金を救うための窮余の策だったと言うことができるでしょう。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿