酒税の減少に歯止めをかけたい国税庁が、若者を対象に日本産酒類の需要喚起に向けた提案を募るコンテスト「サケビバ!」を開催することを決めたと、8月14日の時事通信が報じています。
(同庁によれば)アルコール飲料の新たなサービスや販売戦略について若者目線のアイデアを引き出し、人口減少などで縮小傾向にある国内市場の活性化につなげたいというのがその意図のようです。
資料によれば、1995年度に100リットルだった成人1人当たり酒類消費数量は、2020年度には75リットルにまで減少しているとのこと。さらに、近年はコロナ禍で飲み会や外食の機会が失われ、特に若者の半数程度は日常的な飲酒習慣がないということです。
確かにコロナの感染が広がって以降、若い世代の人たちと酒を酌み交わす機会はめっきりと減りました。たまに夕食などを共にしても、アルコール飲料を注文するのはおじさんばかりのような気もします。
ま、だからと言って、政府が若者に「もっと酒を飲め」と嗾けるのもどうかとは思いますが、業界への影響はそれほど深刻だということでしょう。
若者のアルコール離れは、この先どこまで進むのか。9月14日の経済情報サイト「RESIDENT ONLINE」に経営コンサルタントの鈴木貴博氏が『飲み会が嫌いになったわけではない…大人たちはわかっていない「若者の酒離れ」の本当の理由』と題する論考を寄せていたので、参考までにその一部を紹介しておきたいと思います。
厚生労働省の「国民健康栄養調査」によれば、「週3日以上、1日1合以上飲酒する」飲酒習慣のある人の割合は、1997年頃は中年男性では約6割だったものが、2017年には約4割にまで落ち込んでいる。これはコロナ禍前の数字であり、コロナ禍と無関係の生活習慣の変化を示していると鈴木氏はこの論考に記しています。
飲酒習慣率の落ち方が顕著なのはやはり若者で、20代男性は20年間で31%から16%とほぼ半減、30代男性は55%から25%と大きく減少していると氏はしています。もともと低かった女性の飲酒習慣率も、20代女性で9%から3%へと実に3分の1に落ち込んでいるということです。
では、若者が飲み会に行かなくなったのかというと、そうでもないという数字もある。例えば、日本能率協会が行った「2019年度新人社員意識調査」では、若者層もあいかわらず職場でのコミュニケーションを重視していて、飲み会にも参加する意思を持っているとのこと。同調査では、同期との飲み会は約9割が、上司を交えた飲み会でも6割以上が「やりたい」と回答しているとされています。
ところが、飲み会に行っても彼らはノンアルコール飲料を注文する。このようにお酒を飲まない人の中には、飲めない人だけではなく、飲まない人がけっこうな数でいるというのが氏の認識です。
その理由は何なのか。社会人の場合、通常は出勤から退社までの間、就業規則でSNSなどプライベートの情報発信をすることは制限される。これは逆に言えば、アフター5は彼らにとって待ちに待ったスマホタイムだと氏は言います。
触りたくてたまらなかったスマホに思いっきり触ることができるこの時間。そこをアルコールに邪魔されたくないという気持ちが働くことが「若者のアルコール離れ」の真犯人なのではないかというのが、この論考における鈴木氏の仮説です。
実は、「スマホが隠れた競争相手になっている」という商品やサービスは山ほど存在していると氏は指摘しています。
たとえば、今、TUMIのショップに行くと、売っている鞄の大半はリュックサックタイプに変化している。かばんを手に持つと歩きスマホができないので、古いタイプのかばんは消費者に嫌われ始めているということです。
以前、コンビニ大手のセブンイレブンがドーナツ市場に参入して失敗したのも同じこと。アメリカでは朝、出勤時にコーヒーとドーナツを買って食べながら出社する人がたくさんいたので、セブンはそれをイメージして「左手にコーヒー、右手にドーナツ」を狙っが、上手くいかなかった理由は右手にはスマホが握られていたからだ氏はしています。
雑誌が売れなくなった最大の理由もスマホにある。当初は「若者の活字離れ」が原因だと言われたが、実際には若者は毎日大量の活字をSNSで読んでた。森永の「チョコフレーク」や明治の「カール」が全国販売を終了した理由も、あれを食べるとスマホを持つ手が汚れるからだということです。
さて、そこで話は戻って、それと同じ現象が今、アルコール業界でも起きているのではないかというのが氏の指摘するところです。
スマホ登場以前のアフター5は、ビールをジョッキで3杯飲んで、仕事のことなどぱーっと忘れて陽気にお酒を楽しむのが日本人の習慣だったと氏は言います。ところがスマホが登場してからは、ビールは最初の1杯でやめにして、そこからはノンアル飲料で飲み会を楽しもうと考える人が増加した。その理由は、24時まではSNSに投稿するために脳みそを稼働させておかなければならないからだということです。
サントリーの競争相手は、キリンでもアサヒでもなく、実は携帯各社とLINE、フェイスブック、YouTubeだというのがこの論考で氏の結論とするところ。戦う相手を間違えることなく、販売戦略を再検証してみるのはどうかと、鈴木氏は論考の最後に提案しています。
確かに元来、コミュニケーションとアルコールの関係はそんなに悪いことはないはず。コロナの環境下では、オンラインを使った飲み会や合コンが盛んだったという話も聞くところです。
リラックスできる「家飲み」の需要が、それほど衰えているとは聞きません。ネットにおける匿名性やアバターなどをうまく使いながら、アルコールを媒介とした自由な出会い、交流の場を提供することなども可能な気がするのですが、果たしていかがでしょうか。
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