MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯355 スラム化する東京

2015年06月06日 | 社会・経済


 全国約1800の市区町村のうちの896に及ぶ市区町村に首都圏への人口流出による「消滅」の可能性があるとした、民間の「地方創成会議」による(いわゆる)「増田レポート」は、昨年5月に発表された直後から全国(とりわけ地方部)の自治体関係者に大きなショックを与えました。

 このレポートの発表にタイミングを合わせるかのように、政府・与党が昨年9月召集の臨時国会を「地方創生国会」として位置付け、年末の総選挙や6月の統一地方選挙の争点として選挙戦を争ったのは、私達の記憶にも新しいところです。

 政府は、地方部における人口減少を食い止めるとし、当面の対策として今年2月の補正予算に4200億円に及ぶ地方向けの新型交付金を計上して、地方における消費喚起や子育て世代への支援を行うとの閣議決定を行いました。

 政府のこうした取り組みに対し、総合経済誌のPRESIDENT(6月1日発売号)では、政策研究大学院大学名誉教授の松谷明彦氏が、今後の人口変動により危機を迎えるのは地方部よりもむしろ「東京」ではないかとする、大変興味深い論評を行っています。

 年齢別人口構成などのデータを見る限り、地方部の高齢化は既にピークを過ぎており、今後人口変動は落ち着いていく。つまり、一部で議論されている「地方の消滅」は杞憂に過ぎないというのが、この問題に対する松谷氏の基本的な認識です。

 一方で、これから東京などの大都市圏では、人口は大して減らないかもしれないがこれまで大量に流入した若者が歳を取って高齢者が急増していくことになる。さらに加えて大都市圏では、全国的な少子化によって流入する若者が激減していくという、「三重苦」が始まると松谷氏はこの論評で指摘しています。

 人口が減らなければ、行政サービスや公共インフラへの需要も減ってはいかない。他方、高齢者が急増すれば、医療や介護への負担で財政支出が急激に膨張する。さらに流入する若者の激減で納税者が減り税収は大きく低迷していく。そこで氏が示しているのは、その結果として大都市圏は未曾有の財政難に陥るだろうという予測です。

 特に、東京の高齢化の規模はあまりにも巨大だと、松谷氏はこの論評で述べています。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2010年時点で東京都の65歳以上の高齢者は約268万人。これが2040年には約144万人増え、約412万人にまで膨張する。その増加率は歴史的にも例を見ない53.7%に達し、結果として首都東京の「劣化」が予想されるという指摘です。

 劣化はまず、東京の「スラム化」として現れるのではないかと松谷氏は見ています。

 人口減少・高齢社会では、経済成長率が低下し貯蓄率も大幅に低下する。通常このような局面では、道路や上下水道といった公共インフラを計画的に整理縮小する必要が生じると氏は指摘しています。

 しかし、東京では、人口の減少自体が小幅にとどまるため、公共インフラを大胆に整理縮小していくわけにもいかない。それどころか、現実問題としては2020年の東京オリンピックを見据えてインフラの新規投資を膨拡大させている状況にある。

 冷静に考えれば、それは既存インフラの維持や更新すら困難になるのに、それまでに蓄えた貯金を使い果たすことに他ならないということです。

 松谷氏はまた、東京には今後、大量の「高齢者難民」が発生する可能性が高いと考えています。

 現在でも、東京の高齢者の約4割は借家住まいであり、近い将来、年金制度が事実上破綻して給付水準が引き下げられれば、家賃が払えなくなった高齢者が街にあふれ出すことになるのではないかと氏は懸念しています。

 経済成長が衰えれば、現在は好調な民間によるインフラ整備も次第に期待できなくなる。再開発は行われなくなり、老朽化した商業ビルは、取り壊されず廃墟になっていく。また鉄道の沿線人口が減れば路線は廃止・短縮され、価値を失った郊外の住宅地のゴーストタウン化も危惧されるということです。

 そうした状況を踏まえれば、東京の劣化を防ぐうえでこれから必要になるのは、「変化を恐れないこと」だと松谷氏はこの論評で述べています。

 今後の人口減少高齢社会では、働く人の比率が低下するため、1人当たりの財政支出は増えるが税収は増えない。こうした中で財政再建を達成するには、人口の減少に比例して財政規模を縮小する以外に方法はない。それはつまり、年金や社会福祉、公共サービスなど、これまでと同じ社会構造では成り立たないということだと、氏は厳しく指摘します。

 また、経済においても、東京の国際競争力を高めるためには、(日本企業に外国人を呼ぶのではなく)東京に多数の外国企業を呼び込むような「平成の開国」が必要となる。そしてそのため、日本経済全体の構造改革が求められるということです。

 2020年の東京オリンピックの数年後には、こうした大きな社会変動の兆しが見えてくるだろうと、松谷氏はここで予測しています。「東京の劣化」が氏の指摘の通りであれば、そうした状況が始まってから対策を講じても間に合わないことは論を待ちません。

 万が一、氏の言うように、日本の成長エンジンである東京が劣化するようなことがあれば、それが日本全体の衰退に繋がることは明らかです。対策が手遅れにならないよう、検証と対応を急ぐ必要があるとする今回の松谷氏の論評を読んで、私も首都東京の将来について危機感を新たにしたところです。




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