Wikipediaによれば、「平等主義(egalitarianism)」とは特定の資格・能力・責任を有する範疇内の社会集団、或いは全ての人民(万人)が、法的・政治的・経済的・社会的に同じにように(差別・区別なく)扱われることを志向する政治思想・信条とのこと。
平等主義は近代における人権概念を支える主要な柱である一方で、そもそも人権概念そのものが平等主義に立脚している。そうした意味で「平等」は、他の一切の思想・信条・主張に対して優越する、近代政治社会思想における民主制の根幹を成している思想だということです。
一方、「公平(impartiality)」とは、公に平らかなこと。すなわち、一定の集団において「偏らない」ということだとWikipediaは記しています。人間には、「早い者勝ち」とか、「えこひいき」「仲間外れなど」の偏りが存在することを前提として、義務履行の結果として平らに報じるとの概念を指しているとしています。
「公に平等」という意味のこの「公平」については、実際には「平等」とは異なる概念として取り扱われることが多いようです。特に、明治期以降にこうした概念が一般化した日本では、「平等」は差別・不正・独占などを排し、履行しない者に対しても優遇せず、義務に準拠しない者に対しても偏りなく分け合う概念を表す場合が多い一方で、「不公平」と言う言葉が示すように、「公平」は構成員の感覚としての納得性を伴う概念として使用されていると考えられます。
客観的・数値的な「平等」とは異なり、分配に参加する人々の「公平感」を失わないような分配方法が「公平」の基準だということでしょう。しかし、それぞれの置かれた状況によって異なる公平感を、実際に「正しいと感じることのできる配分原理」に当てはめていくのは至難の業。(大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ではありませんが)分配や負担の不公平感が、時に大きな諍いに発展するのはよくある話です。
人はそれぞれ発射台の高さや努力の量、思いの強さや払った犠牲が違うのですから、構成員の全員が完全に納得するというのはあり得ない話。これまでのいきさつや将来への影響などを見是ながら議論を繰り返し、落としどころを探っていくのがリーダーに求められる重要な能力と言えるでしょう。
さて、10月17日の日本経済新聞(連載「ダイバーシティ進化論」)に、東京芸術大学准教授でアーティストのスプツニ子!氏が、『多様性戦略のポイント、平等より「公平性」に着目を』と題する論考を寄せていたので、この機会に小欄でもその概要を紹介しておきたいと思います。
9月に英国で首相の剤についたメアリー・エリザベス・トラス氏。(残念ながら在任45日で辞任の憂き目にあってしまいましたが)英国史上3人目の女性首相として英国の歴史に刻まれたところです。
今回の英国の選挙の動きを見て、「私は与党・保守党の党首選が女性のトラス氏とインド系のスナク氏の戦いになったことが興味深かった」「それぞれ性別、人種的背景が英国の過去のリーダー像にはまらない2022年らしい光景だなと感じた」とスプツニ子!氏はこの論考に記しています。
女性副大統領がいる米国でも少数派の要職起用が相次いでいる。米バイデン政権の「顔」である大統領報道官のジャンピエール氏は同性愛者を公言する黒人女性で、多様性を中枢に取り込もうとする政権の強い意思が伝わってくるということです。
こうした多様性戦略の根底にあるのは、「これまでの社会構造は白人の男性に対して優遇的であった」という自覚と反省だと氏はここで指摘しています。その反省をもとにリーダー層に少数派を入れ、社会構造そのものを変えようとしているというのが氏の認識です。
少数派を引き上げる上で重要な視点が、「公平性(Equity)」というもので、これは「平等(Equality)」とは少し違うと氏は言います。背景が異なる一人ひとりをそのまま同じスタート地点に立たせて競わせるのが平等なら、平等だけでは公平な結果にはつながらない。人は努力では克服できない「足かせ」をはめられている場合があるからだということです。
公平な結果を導き、社会構造の偏りをなくすには、一人ひとりの状況を見ながら優遇措置など支援の調整が必要だというのが氏の見解です。さらに、リーダー層に率先して多様性を入れること。そうしてみな同じ条件でスタート地点に立てる環境を整えることが、多様性戦略のポイントであるという認識が近年高まっているということです。
日本で女性活躍を語る際に「女性にゲタをはかせるのか」「逆差別だ」と懐疑的な意見を聞くことがある。だが、少し立ち止まって考えてほしいと氏は言います。
日本ではたった4年前、医学部で女性を不利に扱う入試不正事件が明らかになった。同じ大卒でも男女の賃金格差は大きく、管理職の女性割合は1割程度。格差を生み出す社会構造の問題がまだまだ残っており、これを無視したまま男女を「平等」にスタート地点に立たせても、「公平」な結果は生まれないというのが氏の指摘するところです。
組織における人事戦略では、これまで多様性と包括性を意味するD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が一般的だった。これに公平性を加え、DE&Iを掲げる企業が日本でも増えていると氏は話しています。
少なくとも現状では、「平等」に扱えばそれで十分、万事上手くいくという話ではない。公平性を軸足に、女性や少数派が置かれた環境を底上げしていくことが今この日本でも重要であり、それが社会構造を変えることにつながると話す氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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