先日発表された2022年の住民基本台帳(2022年)年報によると、新型コロナの感染拡大で止まっていた人口移動が、再び東京一極集中の方向に大きく動き出していることが判ります。
47都道府県のうち、大きく増えているのは38000人以上の純増を数える東京都と神奈川・埼玉の3都県のみ。一方、(広島県の▲9207人、愛知県の▲7910人の純減を筆頭に)36道府県が「転出数>転入数」となる社会減の状況です。
また、社会移動によって人口減となった都道府県のうち、30都道府県では男性よりも女性の方が多く転出超過となっており、その割合は平均でも男性の1.3倍。社会減となった都道府県の8割以上で、女性の移動によるエリアからの人口減少問題がより深刻であることが見て取れます。
因みに、一番の人口流入先となった東京都は、男性で14000人、女性では(男性の約1.6倍の)23000人を大きく超える転入超過となっており、地方から消えた(=転出超過した)若い男性の10人に3人、若い女性の実に3人に1人以上が東京都に移転している状況が見て取れます。
女性を中心に若者たちをブラックホールのように飲み込んでいく大都会東京。少子高齢化の進展による人口減少が大きな社会問題となりつつある昨今、出生率の低い東京に若者たちが集まることに、懸念の声を上げる政治家なども多いようです。
そうした中、5月17日の日本経済新聞の連載コラム「やさしい経済学」に、日本大学教授(公共経済学)の中川雅之氏が「東京一極集中は問題か?」と題する論考を掲載していたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。
人口減少時代の都市のあり方を考えるうえで最大のテーマは、「現在の人口東京一極集中の状況をどう受け止めるか」ということかもしれないと、中川氏はこの論考に綴っています。
これは、専門家たちによって長い間追求され続けたテーマにもかかわらず、なぜそれが問題なのかについては(災害リスクの分散という指摘を除けば)必ずしも説得的な議論はなされていないというのが氏の見解です。
かつて、出生率の低い東京都への集中が人口減少に拍車をかけるという主張がなされたこともあったと氏は言います。
そう、確かに、東京都の合計特殊出生率は18年が1.15で、全国平均の1.36と、他の地域よりも非常に低くなっている。しかし、首都圏は東京都だけで成立しているわけではない。周辺の千葉県、埼玉県、神奈川県などが1.27〜1.28と比較的高いのは、結婚している人の割合を示す婚姻率が東京都で低く、周辺県では高いことを背景としたものだというのが、首都圏の状況に対する氏の認識です。
様々なタイプの若者であふれる都心部は、パートナーとのマッチングの場として優れているため、独身の若者を引き付けて止まないのは当然のこと。しかし、カップルが成立したり、子どもができたりすれば(彼らも)生活費が安価な郊外に転出するため、東京都の婚姻率が低かったり、周辺県の婚姻率が高かったりするのは当然のことだと氏はしています。
もとよりこれは全国の都市の都心部と郊外部の関係にもあてはまり、東京都への一極集中が出生率を引き下げているという議論は、東京都市圏全体をみれば、過大に評価された議論だというのが氏の指摘するところです。
一方、大都市は、多様なスキルを持つ労働者と多様な活躍の場を用意できる企業との優れたマッチングの場でもある。つまり東京都市圏は、充実した人生を送る相手や、人生のやりがいと豊かな生活の基盤となる企業と、巧みにマッチングできる重要な場所だと氏は話しています。
人口減少下でも豊かな生活を送るためには、日本全体が一定の生産力を備える必要がある。特に、第3次産業、知識集約産業がリーディング産業となるこれからの時代において、人々が集まり、情報やアイデアを交換する場である都市の機能の重要性は、いくら強調してもし過ぎることはないということです。
そう考えていくと、東京に若者が集まるのには集まるなりの理由があり、また、日本の活性化にとっても重要な意味があるということになるのでしょう。
ただ単に、東京への一極集中を是正すればそれで問題が解決するというものではない。東京一極集中の是正を目指す必要性については、いま一度考える必要があるのではないかとこの論考を結ぶ中川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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