一般公募などで話題を呼んでいた、49年ぶりに誕生するJR山手線の新駅の名称が「高輪ゲートウェイ駅」に決定したとの発表がJR東日本からありました。
オフィスに近いこともあり、実は駅名の公募に当たっては、私自身(知人に頼まれ)「高輪駅」に一票を投じていたのですが、まさかそこに「ゲートウェイ」の名が付されるとは思ってもみませんでした。
この発表にメディアには賛否両論が並びましたが、私同様この駅名に「違和感」を持った人々も多かったようで、いくらか時間を経た現在でもネットの炎上振りに収まる気配は見えません。
公募で多くの票を獲得した「高輪」「芝浦」「芝浜」など伝統のある名称がいくらもある中で、果たして「高輪ゲートウェイ」は正解だったのか。
百年コンサルティング(株)代表の鈴木貴博氏が、12月7日のDIAMOND ONLINEに「『高輪ゲートウェイ』に違和感、駅のキラキラネーム化が起きる理由」と題する興味深い論考を寄せているので紹介しておきたいと思います。
結論から先に言ってしまえば、「JR東日本によるこの駅名の選択は、駅名としてはイマイチでも、経営理論的に見れば儲かりそうだ」というのが鈴木氏の基本的な見解です。
駅名の発表に当たり、JR東日本は「この地は古来(高輪大木戸が置かれ)、街道が通じて江戸の玄関口として賑わいを見せた地である」という意味を込め「高輪ゲートウェイ(玄関口)」と命名したとしています。
さらに、折しも世界の注目が集まるオリンピックの年(2020年)に開業することから「東京の玄関口にふさわしい未来志向の名前を付けた」という説明もあったようです。
しかし、都心に向かうゲートウェイ的な交通機関は存在していない以上、来日する外国人も明らかに混乱するだろうし、飽くまでコンセプトにこだわるのであれば「高輪口」で十分だったはずだというのが鈴木氏の指摘するところです。
それでは、そこに何故「ゲートウェイ」が登場したのでしょうか?
鈴木氏はこの論考に、JR東日本は鉄道運航だけでなく開発を手掛ける営利企業であり、「高輪ゲートウェイ駅」の名称にはビジネスモデルのとしての秘密が託されていると説明しています。
広く知られているように、今回の新駅設置は、2015年の上野東京ラインの開通によって役割を終えた(田町-品川駅に位置する)広大な操車場跡地の再開発事業の中心プロジェクトとして位置付けられています。
つまり、(察しの良い方ならすぐにお分かりのように)開発の利益(=開発された土地の価値)を上げるには、「芝浦」や「芝浜」ではなく東京の山の手としての「高輪」のブランドがどうしても必要だったということ。
JR東日本は、六本木ヒルズやミッドタウンと同じビジネス上の「大人の事情」から、(例え「キラキラネーム」と揶揄されたとしても)「高輪ゲートウェイ」という名称が最も不動産ビジネスとしての販売価値アップに貢献できると踏んだということです。
(ここからが面白いのですが)さらに鈴木氏は、付随する現代的な要素としてJR東日本は「バズることの効果」を狙ったではないかとこの論考で指摘しています。
JRでは、一般公募などの手段を弄して49年ぶりの山手線新駅の「名称」そのものに世間の耳目を集めさせました。
この辺りにほとんど土地勘のない人まで巻き込んで(いわゆる)「煽り」をかけたことで、北海道から九州に至る全国の人々に駅の場所を地図で確認させたり、相応しい駅名を考えさせたりしたわけです。
そして、そこに登場した「高輪ゲートウェイ」という「想定外」の「あんまり」な名称は(案の定)、即座に「バズワード」となりました。
鈴木氏の言うようにこれがJRの意図するところであれば、狙いは的中したということでしょう。「高輪ゲートウェイ」は、「高輪なんちゃら」とか「高ゲー」とかの呼び名も含め、一夜にして日本中の誰もが知っている新語になりました。
氏は、この宣伝効果たるや(恐らく)100億円のキャンペーンに匹敵するものと思われると説明しています。
つまり「高輪ゲートウェイ駅」と命名することで、JR東日本は秒速のスピードで数千億円の新規ビジネスチャンスをものにしてしまった。そして、これが今回の事件の本質だということです。
さて、鈴木氏の指摘を待つまでもなく、「名前」というものがとても大切な意味を持っていることは間違いありません。
「高輪ゲートウェイ」がこの先、人々の間に定着していくかどうかはわかりませんが、その大切な「名前」を面前に差し出して巷間の人々を手玉に取ったJR東日本の方が(少なくとも我々よりも)一枚上手であったことは、どうやら紛れもない事実のようです。
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