MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2320 「女はいいよな…」と言う前に

2022年12月22日 | 社会・経済

 男性の健康や生き方を考えジェンダー平等を目指す11月19日の「国際男性デー」に合わせ、仙台に拠点を置く河北新報社がLINEを使って実施した男性を対象にしたアンケート調査。「男性であることを理由に生きづらさを感じたことがあるか」を尋ねたところ、「よく感じる」の12.2%、「たまに感じる」の28.3%を合わせ、男性の約4割(40.5%)が「生きづらさを感じたことがある」と回答したということです。

 因みに、これを30代・40代の男性に限ると、半数以上が「感じる」と回答しているとのこと。一方、60代、70代では8割近くが「感じない」と回答しているなど、仕事や子育てに直面している現役世代とそれらを終えた世代では(かなりの)認識の違いもあったようです。

 それでは、男たちは実際、どのようなことに生きづらさや重圧を感じているのか。回答では半数を超える53.9%が「主に家計を支えること」を挙げ、一家の大黒柱としてのプレッシャーがキツイと感じている男性が多いことが判ります。

 そこに、「力仕事や危険な仕事を任される」(42.2%)、「忍耐を重んじる精神性」(32.2%)が続き、「仕事と家事・育児の両立」「伝統的な家父長制」なども25.7%と高率です。これらは、仕事の負担が変わらないまま家事や育児に追われ、愚痴も言えずに疲れている子育て世代の男たちの姿を映しているものと言えるでしょう。

 「男女平等」と言うと「女性活躍」と同義的に捉えられることも多い昨今ですが、「男社会に生きる男も(実は)結構つらいのだよ」と弱音を吐けない人も案外多いのかもしれません。

 最近では、お隣の韓国でも「女性徴兵論」に対する議論が白熱しているという話を耳にします。今年の4月19日に青瓦台(大統領府)のホームページに「男性だけでなく、女性も兵役に就くべき」と訴える国民請願が掲示され、29万人以上が賛同したということです。

 女性の学歴向上と男女平等を目指す機運の高まりに加え、労働市場参加を支援する制度などが実施されたことで、女性の労働市場参加が増え続けているとされる韓国。一方で、兵役義務を終えた20代男性を含めた若い男性の就職は益々厳しくなっているのが現実だということです。

 「女はいいよな…」というのは、50年も前に小学生だった私たちも日常的に口にしていた台詞のひとつ。半世紀後の男女平等の社会に生きる男性たちは、さらに厳しい思いをしているということでしょうか。

 こうした状況を踏まえ、10月27日の女性向けウェブマガジン「mi-mollet」に、元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子氏が『「女はずるいよな」と恨む男性よ。女性は敵じゃない、孤独と苦しみを共有できる仲間なんだ』と題する論考を寄せていたので、ここで紹介しておきたいと思います。

 若い世代に「もう男女差別はない」「むしろ女性が優遇されている」と考える人が珍しくないのは、男性が割を食っているように感じるからではないか。実は20代までの女性も、「女子の方がオイシイ」と考えがちだと氏はこの論考に綴っています。働き始めたばかりの頃は、私もそう思っていた。実際、目の前の風景だけ見て構造を視野に入れなければ、確かに若者の目には女性の方が得をしているように見えるというのが氏の認識です。

 若い女性は権限を持つおじさんたちに可愛がられ、世間からも何かと注目されるけれど、若い男性はオトコ社会のヒエラルキーの最下層に位置付けられて下働きをさせられ、理不尽な上下関係に耐えることを求められる。一方、女性は運良く稼ぎのいい男性と結婚すれば仕事を辞められる(今やその可能性は限りなく低いですが)のに、男性は一生働き続けねばならないということです。

 男性にそういう生き方を強いる世の中を恨んでも、現状は変えられない。だから「女はずるいよな」と、目の前の女性に矛先が向かうことがあると氏は言います。けれど、本当の敵は(目の前にいる)女性ではない。女性は若いうちしかチャンスがなく、男性が若い時には不遇なのは同じ構造ゆえであり、権限が集中する熟年男性たちにとって快適な、おじさんの内輪の理屈で全てが決まる構造にあるというのが氏の見解です。

 そこには、「わきまえている人」しか生き残れない社会がある。得をしているのは女性ではなく、 “若いお姉ちゃん”を身近に置いて、若い男をこき使い、自分に都合のいい決定を下せる意志決定層。そして、そういう組織がまだ幅を利かせていることが問題だということです。

 若い男はチャンスに恵まれないと言っても、年功序列の男性社会では、じっと耐えていればおいおい事態が改善していく(事が多い)。30代になれば仕事で評価されるチャンスが増え、40代ともなれば権限も手に入ると氏は言います。

 理不尽さに苦しんできた男たちは、同世代の女性が育児と仕事の両立に悩んでいても「若い時にお前がおっさんにチヤホヤされている横で、俺はしばかれてたんだぞ。おばさんになってからもまだ特別扱いしてくれなんて、甘えるな」と言う気持ちになるのも分からないではないということです。

 しかし、自身の妻が出産後に仕事を続けられないのは家計に響くから困るけれど、誰かの妻が働けなくても知るもんか…というのでは筋が通らないと氏は言います。責めるべきは女性ではなく、育児と仕事が両立できる制度を整えていない会社なのに、女性への恨みごとに終わってしまうのなら、会社は「しめしめ」だろうというのが氏の指摘するところです。

 なぜ若い男には出番がないのか。なぜ若くなくなった女性は軽んじられるのか。私たちは誰に分断されているのか。視線を横ではなく上に向ければ、生きづらさの原因が見えるはずだと結ばれたこの論考を、私も興味深く読んだところです。



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