
(トロント大学の構内)
トロント出発の前日、声がかすれているのに気づく。ここ数年、風邪を引くと声が出なくなることがあるが、このタイミングでこうなるとは! 自覚してなかったが、疲れがたまっていたのかもしれない。風邪というのは一番引くと困る時に引いてしまうのが相場だが、とにかくパネルをやるしかない。
日本からいざという時用に持ってきた薬を飲み、うがいに努めて喉をいたわる。
初めてのカナダは、心配したほど寒くはなかったが、イギリス連邦の国という雰囲気で、アメリカとは様子が違う。14日に着いて、早速夜は日本からやってきた共同研究者達と合流して打ち合わせをした。
15日は会場のホテルにほど近いトロント大学で中国哲学史のワークショップがあるというので、同宿している日本からやってきた中国研究者のSさんと一緒に出かける。旧知の(でも数年ぶりだった)ヨーク大学のF教授の主宰するワークショップは、香港やドイツからの研究者の報告もあり、テーマを絞って深い議論の展開されるいい研究会だった。夜はやはり旧知の北京大学の戴錦華教授のキーノートスピーチがあり、現在のグローバル化の下での商業主義の進展を、彼女らしい直截な言い方で批判していた。
16日夜は、AAS全体のセレモニーがあり、中国女性史の研究者である現AAS会長のGail Hashetter氏の講演があり、20世紀の中国女性/女性史を回顧する印象的な内容だった。今年のAAS特別功労賞は、宋代女性史家のCharlote Firth氏に贈られるという。約10年前、やはり中国女性史家のSusan Mann氏が会長の年に日本の小野和子先生(私が個人的にお世話になった先生でもある)に特別功労賞が贈られ、Mann会長を迎えて東京で祝賀会をした時のことを思い出す。今年は‘before and after Susan Mann'という連続パネルもあり、10年前に続いてとりわけ中国女性史/ジェンダー史がスポットライトを浴びる大会になっていた。
AASはアジア全体を対象とする学会だが、中国関係の報告の多さは、日本研究その他を大きく引き離している。その中にあって女性史/ジェンダー史はパネルの数も多く、完全に主流化していることがよくわかった。日本の中国女性史/ジェンダー史の状況とは雲泥の差である。この違いはなぜなのか、よく考える必要があろう。
ともあれ私にとっては、パネルの準備と自分の専門の報告を覗くのとで大変忙しいが実りの多い大会となった。