自動車運転免許自主返納できますか?(上)
普段何も考えずに便利な手段として使用している自家用車。日々、通勤に使用している人もいるだろうし、子どもたちの送り迎え、買い物など日常生活に密着しており、車なしの日常生活を考えられない人も多い。
しかし高齢者の運転能力低下により、交通事故が起きており、中には重大事故も発生している。政府・自治体は、高齢者の運転免許証返納の働きかけをおこなっている。この自主返納をすると、「運転経歴証明書」の交付を受けることができ、これを所持していると様々な特典が受けられることになっている。
筆者の母親は、79歳で免許の自主返納をした。私を含めて子どもたちが再三にわたり返納を促して、やっとのことであった。
しかし、必ずしも高齢者の運転免許自主返納が進んでいるとは言えないのが実情だ。その理由を見ていくと、単純に運転免許証を返上してしまうことができない事情が浮かび上がってくる。
高齢者運転の実態は?
「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(生命保険文化センター、2021年6月)によると、60歳以上の高齢者の55%が自動車を運転するとしており、これを男性に限れば73%となり、大半の高齢者が自動車を運転している。年齢別には、60歳代の高齢者の70〜77%が運転をしており、70歳代前半で59%である。これが75〜79歳になると47%と半数以下になり、80〜84歳で32%、85〜89歳で19%、90歳以上でも11%が運転している。
運転頻度について言えば、ほとんど毎日運転するのは、非高齢者中年世代の場合は、概ね27〜28%である。ところが60歳以上の高齢者になると、一気に運転頻度が上昇して、60〜64歳で51%、65〜69歳で44%がほとんど毎日運転している。週に2〜3回運転するとしている人を含めると60%以上の人が日常的に運転をしている実態が浮かび上がる。中年世代は、日常的には仕事に出かけているので、毎日運転はしない人も多く、週1回または月1回程度の運転になっている。一方、高齢者の場合時間的余裕もできる一方、必要な外出の機会が増えてくるものと考えられる。
現代の高齢者の健康状態を考えると、75歳未満は概ね活発に活動もしておりIADL(手段的日常生活動作)・ADL(日常生活動作)的にも問題は少なく、自動車の運転に支障の出る割合は低いと考えられる(個人差はある)。一方、75歳を越えるぐらいから、様々な支障が発生する可能性があり、自動車運転に関して細かい気を遣う必要が出てくる。
週に2〜3回運転を含めると、75〜79歳では約40%、80〜84歳でも29%が日常的に運転している実態が浮かび上がる。なお、これを男性に限るとさらに運転割合が高くなることが予想されるが、そのデータは明らかになっていない。
この調査では、免許証の返納意思についても聞いており、「特に決めていない」が約46%、「自主返納する心づもりがあるが、返納時期は決めていない」が41%となっている。男性の方が、「特に決めていない」を選択する割合が高い。
年代別には、60歳代は、「特に決めていない」を選択する人が大半である。一方70歳代では「自主返納する心づもりがあるが、返納時期は決めていない」を選択する人が約半数である。また、75歳以上になると、1〜3年以内に自主返納する、もしくは次回更新時に失効させるとの項目をチェックする人が増えてくる。85歳以上でも自主返納を、特に決めていないとする人も26%程度存在する。
実際に免許の返納を考えると、今すぐとは言えず、かといってずっと運転し続けることはできない、という思いとの間で、揺れ動く高齢者たちの姿が浮かび上がってくる。
(下へ続く)