自主返納できない理由は?
警察庁が2015年に公表した「運転免許証の自主返納に関するアンケート調査(75歳以上の運転継続者対象と自主返納者対象)」という調査がある。最寄りの駅・バス停までの所要時間と運転頻度との関係を聞いており、10分未満の場合、ほぼ毎日の運転頻度割合は、約61%である。これが20分以上になると約67%と上昇する。ここで注意が必要なのは、最寄りの駅・バス停と言っても、1日数本しかないようなものである場合も含まれ、実際的には日常的な利用として期待できないものも多く含まれる事例が、一定以上あると思われることである。
実際、住んでいる街の人口と運転する割合は、しっかり相関しており、人口が少ない街ほど「ほぼ毎日運転している」割合が増加する。明確な区分けは断定できないが、人口10万人未満の小都市より少ない人口の街で、毎日運転する割合が大きく増える傾向にあるようだ。
運転の目的については、「買い物のため」とする人が過半数となっており、次いで「家族等の送迎のため」「趣味のため」「車を運転する職業のため」「通勤のため」となっており、多くのは生活そのものを送るために運転を継続していることが分かる。趣味で運転している訳ではなく、必要に迫られて運転をしているのだ。
運転を継続している人の返納意思は、67%が返納しようと思ったことがないとしており、返納をためらう理由として、「車がないと生活が不便なこと」を68%の人が選択している。自主返納者に対する支援としては、「交通機関の発達」や「交通手段に関する支援の充実」と回答した者が、運転継続者、自主返納者ともに7割を超える。「交通機関」とは、電車・路線バスであり、「交通手段」とは、乗合タクシー、コミュニティバス、タクシーの割引等となっている。
「交通機関の発達」という課題は地方自治体レベルでは、具体的な変化をもたらすことはなかなか難しい。例えば電車やバスの本数を増やすといったことには大きな困難が伴う。このため、自治体毎に乗り合いタクシーや乗り合いバスなどの取り組みが様々におこなわれつつある。しかしこれらも利用者サイドからすると利便性の点で、自家用車で運転して出来ていたこととの落差が大きくなっており、あまり評判がよろしくない。このため、利用者が低迷し、上手くいっている地域は多くない。
そのような中で、現在注目を集めているのが、愛知県豊明市の「チョイソコとよあけ」である。これは元々豊明市とアイシン精機(株)が協働で実施する、デマンド型乗り合い送迎サービスである。8人乗りのワゴンを用いて、1回200円で乗車できる仕組みになっている。現在は、複数の地域で「チョイソコ」が広がりつつある。
https://www.choisoko.jp/toyoake/
https://ligare.news/story/aisin-choisoko_gifu/
求められる社会政策
「ずっと運転していくのは不安だし、怖い」と思っている高齢者は多い。だから免許の返納を考えるが、現在の生活を維持できなくなってしまう、という懸念から、返納を踏み切ることができないというのが実情であろう。若干の不便さが受け入れられるとしたら、どの範囲なのか、それをどう社会的に実現していくのか。もはや個人の問題と出来ない課題である。
今回は海外での事例を割愛したが、いずれ海外での実践事例についても触れてみたい。
(近日、続きを掲載予定)