おススメ 70歳以上も働き続けること
こういうタイトルだと、「そんなに長く働かされるのか」という声がすぐに聞こえてきそうだ。確かに「働かされる」のであれば、気持ちの面でも前向きになれず、苦しさが前面に立ってしまう。しかし、筆者は自分で選択して「仕事をする」ことが、様々な点で良いことが多いと考えている。まず第1は、健康を考えてのことである。既に様々な研究によって、「仕事をしている」ことが認知症予防として、優れた効果を発揮していることが明らかになっている。人間やることがある方が、ボケにくいのである。さて、70歳以降も働き続けることを考えてみよう。
1.シニア雇用の政策経過
シニアの就業に関して、国の政策は高年齢者雇用安定法に基づき実施されている。高年齢者雇用安定法は、「少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図ること」を目的としている。2012年改正によって、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保を義務とした。
それがこの4月からの実施となった改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とした。これにより次のいずれかの措置が求められることになった。ただし、対象は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主となるので、少し注意が必要だ。今のところ③を採用する事業者が多いようである。
① 70歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
2.シニアの就労状況
こうした政策も契機として、65歳以上のシニア世代の就労割合は着実に増加している。労働力人口に占める65歳以上の割合は、2011年8.9%から、2020年13.4%へと上昇し、10年間で338万人の増加である。この期間の労働力総人口の増加が272万人であり、25~44歳世代の労働力人口の減少を補っている(出典:令和3年度版高齢社会白書)。
これを当該年代の就業率に限ってみると、65~69歳では2011年36.2%から、2020年49.6%へと増加し、70~74歳では、22.8%から32.5%へ増加となっている。既に、約半数の60歳台後半の人たちが、何らかの就業をおこなっている実態がある。また、70歳台前半の3人に一人は就業しているのである。ちなみに60~64歳の就業率は70%を越えており、既に大半の人が仕事をしている。
ただし仕事をしているとしても60歳以降は、男女とも正規職員ではなく非正規職員として働く人が増加していく。男性では、非正規の割合は、55~59歳では約10%であるが、60~64歳では約47%が、そして65~69歳では約70%が非正規職員として就業している。一方女性では55~59歳で既に約60%が、60~64歳では約75%、65~69歳では約84%が非正規職員として就業している。この世代の女性は、元々正規職員として就業している割合が低いのだが、それが影響して非正規割合は一層高くなっている。このように働き方としては、契約社員・嘱託・パート・アルバイトなどの形態で働く人が増えていき、これに伴い収入も60歳未満の時よりも下がっていく傾向となっていく。
世の中的には、60歳定年を機に起業して、法人経営や個人事業主となる人も一定存在する。こうした人たちは、55~59歳では約19%であるが、60~64歳では約21%が、そして65~69歳では約22%と微増していく。しかし、大勢はやはり雇用される労働者として働くことになっている。
(中へつづく)