おススメ 70歳以上も働き続けること(中)
2.シニアの就労状況(続き)
公的年金の支給開始年齢は65歳からであるが、受給開始年齢を段階的に上げていくための措置として「特別支給の老齢厚生年金」という制度がある。しかし、男性に関しては2021年4月2日以降に60歳になった人から制度の対象外となり、65歳まで年金支給は一切なくなった(女性は2026年より)。これからの世代は、良い悪いは別として65歳までは仕事をしていないと、収入が得られないのである。このため、今後少なくとも65歳までは、非正規で収入が下がったとしても仕事を続けることが、男女とも当然のことになっていく。
そして国の制度的後押しもあり、今後は70歳まで仕事をする人が確実に増えていくことが見込まれる。このことは、「あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか(60歳以上男女、収入のある仕事をしている人対象)」という質問への回答で見ることができる(内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」令和元年度)。ここでは「働けるうちはいつまでも」を選択する人が最も多く(約37%)、次いで「70歳くらいまで」(約23%)、「75歳くらいまで」(約19%)、「65歳くらいまで」(約12%)となっており、既に70歳くらいまで働くことを念頭に置く人が増えており、それよりもさらに働き続けることも見据えた意向も出てきている。このことには、65歳以降支給される公的年金だけでは、自分の生活の将来の不安を拭えないという思いの反映でもあろう。
3.拭えない将来への不安とは
それでは、この将来への不安とは何であろうか。
この「不安」のほとんどは、「自らと家族の健康と生活、そして介護への不安」と考えられる。「長寿社会において最も不安なこと」、について調べた調査(60歳以上男女対象)では、「健康面(からだの機能の低下等)」が46%と最も多く、「健康面(もの忘れや判断能力の低下等)」の29%が続いている。これらに比べると、「経済面(生活資金の不足等)」は16.9%と低くなっている(ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査、生命保険文化センター、2021年)。
これを年代別にみると、60歳台は総じて「経済面」での不安が強く、「健康面(からだ)」での不安は強くない傾向にある。これが70歳代になると、「経済面」での不安が下がり、「健康面(からだ)」での不安が上昇してくる。そして80歳台以上では、「経済面」での不安はさらに下がり、「健康面(からだ)」での不安が最も高くなる。一方、「健康面(こころ)」は60歳台から90歳台にかけて不安の度合いはほぼ同じ水準である。これは、人は物忘れや判断能力の低下について、一般的な不安は感じるものの、実際には自分事として捉えにくい、また意識的に避けようとしていることの現れだと考えられる。
この調査では同じ質問を40~59歳男女にもしており、この世代では「経済面」での不安が最大の半数弱となり、次いで「健康面(からだ)」となり、大きな違いが生じている。人生100年時代と言われ、一時期老後の資金2000万円問題などが話題にもなり、社会的に不安を掻き立てられ、必要以上に不安を惹起させられているとも言える。実際の高齢者は、実はそれほど経済面での不安は大きくない実情があり、冷静に見ていく必要がある。
(下に続く)