これまでのあらすじ(ドラマチックに)
久しぶりに外に出た出不精の私。すべての用事を済ましてしまおうと、小切手を提出しに銀行へ向かう。
しかし、そこには小切手提出マシンに悪戦苦闘している老婆が!!
老婆を助けて、予定通り小切手を提出するか、それとも後日にするか!?
どうする、私!?
私が小切手の裏面に必要事項を記入し終わり、おばあさんが小切手提出マシンに悪態をつき始めた頃を見計らい、おばあさんに声を掛ける。
「あの、お手伝いしましょうか?」
「何?聞こえないわ!!」
と私の方を見たおばあさんの顔は、沸騰中。
これは、あれだ。パソコンで何回やっても上手く操作できなかったり、インターネット回線が遅かったりする時に、「こんなパソコン窓から投げ捨ててやる!!」と思う時にしているであろう顔だ。
うわあ、厄介なのに、自ら引っかかっちゃったな~。
もう一度手伝おうかと提案すると、金切り声で、何度やっても操作が上手くいかないことを説明してくれた。
「私が打ってみましょうか」
と、小切手の控えを見せてもらいながら口座番号を打とうとすると、耳元で金切り声で口座番号を叫び出す老婆。
いや、やめてくれ。大きな音は苦手なのだ。それに集中しながらだから、頭の中で番号は日本語なのだ。それなのにフランス語で数字を言われると混乱する上に、打っている場所と違う数字を言われるので、さらに混乱するのだ。私にそんな高度な機能は搭載されていない。そして数字のある部分に老婆の指があって、すべての数字が見られないときている。
一瞬老婆のペースに巻き込まれそうになったが、ここで二人で集団ヒステリーを起こしても仕方がない。
「これは控えだから大丈夫よね。ちょっと見せて下さい」
と、控えを老婆から受け取り、その控えが、老婆の目の前から絶対に消えないようにしながら、私の見やすい位置に移動する。どちらにしてもこの控えがあると、後の操作でこの老婆が混乱するだろう。
あとは数字を打ち込み、小切手をマシンに入れるだけ。
・・・と思ったのだが、そうは問屋は卸さない。
打ち込んでいると、またもや老婆は、金切り声で数字を叫び出し、2回打ち込みに失敗した。
「黙って下さい。黙って下さい(ギリギリ失礼)。集中したいので」
と何回言っても、耳元で絶叫されるので、最終的には「シーッ!!!シーッ!!」と口の前に指を当てて、ジェスチャーしてみたが(これはとても失礼)、絶叫止まらず。
何とか3回目で、正確な数字を打ち込んだ時には、既に疲労困憊。
「では、ここにあなたの小切手を入れて下さい」と場所を示して、次の指示をする。
すると、老婆は
「私の小切手はどこ!?あなたが持ってるんじゃない!!」
と喚きたて、私の手から控えを奪い取った。
まあね。覚悟はしていたのよ。この世代からみたら、得体のしれない中国人なんて(この世代はアジア人を見ると中国人だと思う)、怪しいことこの上ないしね。
しかも、銀行でお金の関わることだから、こういう場合は、関わらないのが最善なのよ。
ただ、小切手は表に宛名はあるし、裏にサインが必要だし、このマシンは一生かかっても彼女の使えるところではなかったから、手伝いを申し出ただけで。
これがカード関係だったら、死んでも関わらないんだけど…
「ちょっと~、それは小切手じゃないでしょう?」
と、心底うんざりしながら言い、まさか控えをマシンに入れるおつもりか?と固唾を飲んで老婆を見守ると、悪い中国人から奪い返した控えを、目も止まらぬ早業で、小切手の入った封筒に入れ、マシンに差し込んだ。
これは、マシンを使わない小切手の提出方法で、「ほう。そうか、そう来たか」と感心する。だがしかし、機械は私のようには、感心してくれなかったらしく、受け入れを拒否。
「は、入らないわ!!」
と、老婆絶叫。たった今、盗人扱いした東洋美人に「なんで?」と助けを求めてくるのはいかがなものか?
「ねえ、マダム。彼女の言うことを聞きなよ」
と、男性の落ち着いた声が聞こえた。
どうやら一組のカップルが、いつの間にか来ていて、この阿鼻叫喚の一部始終を目撃していたらしい。
その声が彼女に聞こえたのかどうなのか?
もう一度、「ここに小切手
だけを入れて下さい」と「だけ」を強調しながら、ゆっくり繰り返す。
「え、でも封筒は?控えは?」
戸惑う彼女の目を見ながら、ゆっくり首を振り、「ここに小切手
だけを入れて下さい」と繰り返す。
恐る恐る小切手のみをマシンに差し込む老婆。
果たして、その小切手は無事にマシンに吸い込まれて行ったのだった。
モンペリエ 植物園にいたネコ
明日に続く。
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