松島局(まつしまのつぼね)は鎌倉時代前期の女性
生没年未詳
文久2年(1862)出版 歌川豊国(国貞)絵
松島局の父は佐渡守・藤親㤗(とうのちかやす)なり
局(つぼね)は鎌倉御所の奥に宮仕えして容顔美麗なる名を高し
そればかりでなく性質(こころばせ)優に窈窕(やさし)く志操篤実なり
和田義盛より三男朝比奈義秀の妻にしたいとの申し入れにより
奉公のいとまを賜り、既に義秀が妻たるに定まっていたが
北条義時の二男朝時がかねてより松島に眷恋しており
今 和田氏へ婚姻することは安からざること堪え難きを
義時は不憫に思う余り 執権の威に任せ 尼将軍政子の方に内訴した
尼公も甥の胸を察し謀議を設け松島を召篭め置きて
和田へ渡さず 密かに朝時に与えんとしていたが
松島心に思うのは 他に嫁げば義秀に不貞なり
尼公の命に背けば不忠なり 忠貞兼ねることを充てはずし
ただ命を棄てて婦道を守らんと夜中 刃に伏て没す。
行年十八歳と聞えたり
義婦に逼って生命を奪うのは竒(めずらし)きことではないが
誰かはこれを惜しんでいるであろう。
(柳亭種彦記)
『雪の松 おれくち見れば なお寒し』