思い出してください。学校帰りにザリガニ釣りに繰り出した小学校時代のあの頃。1メートル弱の巨大ザリガニを釣って友達に自慢したあの日──。
え? そんなにでかいの釣ってない? こりゃまた失礼しました。でも、世界にはそれくらいでっかいザリガニもいるってご存知ですか?
講談社の動く図鑑「MOVE」の公式サイト「WebMOVE」からの出張連載。モンスターハンター・平坂寛、今度は世界最大のザリガニと決闘です!
世界一でかいザリガニ。その大きさは?
突然だけど、ザリガニってカッコいいよね。
エビの仲間とは思えないほど大きな体! そしてハサミ! 日本に昔からいるニホンザリガニだとハサミまでふくめた体の長さは数センチ、アメリカからやってきたアメリカザリガニやシグナルザリガニだと20センチ近くにもなる。
僕も小さなころザリガニ釣りに夢中になったなぁ……。タコ糸にスルメをしばりつけてさ……。そう、今も昔も大きなザリガニたちはクワガタやカブトムシとならぶ子どもたちのヒーローだ。
……じゃあさ、世界一大きなザリガニってどれくらいでっかいと思う? どこにいると思う?
で、デカい……! デカすぎる。ロブスターよりデカいぞこれ……。
でも見た目はたしかにザリガニだよなあ……。
この巨大なザリガニの名は「タスマニアオオザリガニ」。
ハサミまで含めた体の長さはなんと90センチにもなるとか。体重は大人になると1キロ以上。大きなものでは4キロ。今まで捕まった最大のものではなんと6キロのものまでいたという。
ちなみに、ぼくら人間は生まれたばかりの頃はだいたい3キロくらい。赤ちゃん2人分のザリガニって……!
こちらは、おなじみのアメリカザリガニ(左上)。右下はアメリカから持ち込まれ、日本では北海道や東北などの冷たい湖にいるシグナルザリガニ(ウチダザリガニ)。
アメリカザリガニよりも大きいが、それでも手のひらにのるサイズ。これらと比べるとその大きさは一目瞭然! そんな巨大ザリガニはいったいどこにいるのか。
捕獲には「腐った缶詰」が最適!
タスマニアオオザリガニがいるのは、オーストラリアのタスマニア島という九州くらいの大きさの島。タスマニアデビルやウォンバットをはじめ、ここにしかいない動物がたくさんいる不思議なところなんだ。
そしてこの島の森を流れる小さな川に、そのモンスターザリガニは潜んでいるのだ。
しかも性格はけっこう怒りっぽくて、捕まえると大きなハサミを振り回して攻撃をしてくる。めっちゃ怖い! けれど動きはにぶいし、逃げ足も遅い。やっぱり大きすぎる体が重いのかな?
タスマニア島でザリガニの研究を続けているウォルシュ博士によると、タスマニアオオザリガニはクサいものが大好物だという。だから捕まえるときに使うのはイワシのカンヅメ。しかもフタを開けて何日もほったらかして腐らせたモノ!
それをワナに入れて川に沈めておくと、巨大なザリガニが次から次に捕れる(※ただし、研究以外の目的で捕まえてはいけない)。
他にも生きた魚や小さな生きものはもちろん、水中に沈んだ落ち葉や枯れ木まで食べるという。食いしん坊というか好き嫌いがないというか……。
またこのザリガニはとても長生きで、20年生きているものはザラなのだとか。なかには50年以上も生きるものさえいるというか驚きだ。ただでっかいだけじゃなく、いろいろな個性を持った生きものなんだなぁ。
しかしそんなタスマニアオオザリガニたちは今、絶滅しかけているという。
今から60年ほど前は、タスマニアのあちこちに巨大なオオザリガニがゴロゴロいたという。あんなのがゴロゴロ!? なにそれドラ○エの世界?
しかし、それが今ではたった数本の川、しかもほんの限られた場所でしかその姿を見ることができなくなってしまった。タスマニアオオザリガニの身にいったい何が起こったのか……?
その美味しさも世界一!?
なんと、人間が捕まえつくしてしまったのだ。しかもその理由は「食べるため」!
タスマニア島のお年寄りに話を聞くと「タスマニアオオザリガニは海のロブスターなんか目じゃないくらいおいしい!」と懐かしそうに言う。
そんなにおいしくて、そのうえ大きくて食べごたえもあって、そのうえ簡単に捕まえられるなんて……。なるほど、いなくなるまで捕りつくされるのもわかる気がするな。
しかしこれじゃあいかん! ということで、20年くらい前に法律でタスマニアオオザリガニを捕まえることが禁止された。そのおかげでタスマニアオオザリガニは人間に捕まることがなくなり、少しずつだけれどその数を増やしはじめているとウォルシュ博士は嬉しそうに話してくれた。
それが何十年後になるか、はたまた何百年後になるかはわからないけれど、またタスマニア島の人たちがこの「川のロブスター」を堂々と食べ、子どもたちが巨大ザリガニ釣りをして遊べる日が来るといいなあ。
……でもそのときは、もう捕りつくしたりしないよう、ほどほどにしてほしいね。