LINE「らしくない」賭け 活気づくか日本のデジタル
本社コメンテーター 村山恵一
日本のネット業界でLINEは一味違う存在だった
ともに国民的なインターネットサービスを担うヤフーとLINEが経営統合で合意した。世界に先駆け、勢力図を変えるような革新が生まれにくくなった日本。果たしてこの統合でこの国のデジタルは活気づくだろうか。
日本のネット業界でLINEは一味違う存在だった。ヤフー、楽天、サイバーエージェント、ミクシィ、ディー・エヌ・エー、グリー……。1990年代後半から2000年代初めまでに誕生した各社はパソコンやガラケー(従来型の携帯電話)向けのサービスが出発点だ。
対するLINEは設立こそ00年だが、10年にスマートフォン(スマホ)向け事業しか手がけないと決め、経営資源を集中してきた。看板アプリ「LINE」は短期間で世代を越え使われるコミュニケーション手段になった。
やり取りするのはインフォメーション(情報)ではなくエモーション(感情)。そんな思想が下地にある。「ネット事業というと技術に目が行きがちだが、それだけでは主導権をとれない」(森川亮・前社長)。クマやウサギなどユニークなキャラクターが生み出され、スタンプとなってネットを行き交う。表情や動き、大きさを調整するデザイン部隊の緻密な作業の産物だ。
ITの主戦場になった人工知能(AI)の開発にも取り組み、音声で操作するスマートスピーカーの商品化へと踏み込んだ。いわばテクノロジーがわかるクリエーター集団。他の日本のネット大手とは一線を画し、周到に企業文化やブランドイメージを築いてきた。
世界市場を視野に、東京とニューヨークで株式上場を果たしたのは16年。こういう会社なら、世界にインパクトを与えられるかもしれない。そう感じた多くの企業がLINEと手を組んだ。
今年6月末、LINEの戦略発表会でも長い時間をかけて、金融・決済、エンターテインメント、AI、検索、さらには未来のテレビまで、さまざまなプロジェクトが披露され、提携相手が次々とステージに上がった。オンラインとオフラインのハブになる――。LINEを中心にしたデジタル世界の姿を訴えた。
あれから5カ月足らず。意外にもLINEはヤフーと合体する道を選んだ。
確かにグローバルな巨人がひしめくITの競争は激しく、巨額の投資が必要だ。規模が大きくなければできない思い切った挑戦があるのは間違いない。
だとしても「後ろ盾」となるパートナーがソフトバンク、ヤフーというのは、これまでのLINEの歩みを考えれば「らしくない」との印象をぬぐえない。ネット企業同士の組み合わせは無難な選択肢ではある。ただ新たな価値を生み出す化学反応の起きやすさという観点からは、むしろリスクともいえる。
あらゆるものをネットでつなぐIoTの時代だ。もはやネットはスマホのなかに閉じてはいない。デジタル経営のあり方はどんどん変わる。米グーグルは今月、ウエアラブル(身につける)機器のフィットビットを21億ドルで買収する計画を発表した。米フェイスブックもかつて買収した仮想現実(VR)ベンチャーの技術をてこに20年、新しいプラットフォームづくりを本格化する。
つまり、ネット企業とネット企業の組み合わせ以外にも再編の選択肢はある。資金が豊富で、経営のデジタル化への欲求を抱えた企業は製造業にもサービス業にも分野を問わずある。LINEにも、そういう企業との「異種交配」でこれまでにないテクノロジー企業の姿を描く選択肢があったのではないか。ネットとリアルにまたがるハブの座をねらってきたなら、なおさらだ。