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Myselves

言葉と音楽に隠された魔法を探して放浪中。
そんな『自分自身』たちの旅の様子は?

白――レミ講座おまけ

2009-09-17 11:49:11 | 舞台
レミ講座のおまけです。
これは、私が演じた少年の『物語』――





ぼくの名前はルネ。
ちっちゃい頃からずっとパリにいる。
年はわかんない。「キリがいいから10才にしておけ」って前にグランテールさんに言われたから、10才にしておいた。


カゾク? カゾクって何?

……ああ、お父さんとかお母さんのことか。
お父さんはいない。会ったこともない。生きてるのか死んでいるのかも知らない。
お母さんは3年前に死んだ。死ぬ前に時計を残してくれた。首からかけられるようになってる。「男の子がするものじゃないね」ってお母さんは笑った。
兄弟はいないよ。ガヴローシュみたいな兄ちゃんがいたらよかったなって思う。


何? 聞こえない。
あ、足のことか。いちおう動くんだよ、ほら……
これ、お母さんが生きてたころ、人につきとばされたんだ。
どうしてそうなったかって? 使いっ走りをしてたときにね、怖い人にぶつかったんだ。あやまったんだけどつきとばされたて、それで転んじゃった。どうしてそうなったかよく覚えてないけど、すごい音がした。
周りが血だらけで、すごく痛かった。お母さんが手当してくれたんだけど、こうなっちゃったんだ。

……だから、動くんだってば! そりゃ、前みたいに速く走ったりできないし、時々両手と右足だけではわなくちゃならないけど。
今? 今はそんなに痛くないよ。でも、雨が降ると痛くなる。


んー何?
ごめんね、ぼく、ちっちゃいころにびょうきしたせいで左の耳がよく聞こえないんだ……


あ、ガヴローシュのこと?
ぼくは大すきだよ。時々食べ物をくれるし、寝床も見つけてくれる。
たまにからかわれるし、「時計売れよ」って言われることもある。絶対売らないよ、これだけは。


ガヴローシュはね、『ABCの友』っていう人たちを教えてくれたんだ。
はじめて会ったときのことはわすれられないな。
みんなきれいな服を着て、むずかしいことを話してたんだ。
グランテールさんが「お前は足が悪くなきゃガヴローシュに似てるな」って言ってくれたんだ。うれしかったな。
ジョリさんは時々足と耳をみてくれる。将来はお医者さんになるんだって。すごいよね。
レーグルさんとクールフェラックさんはよく遊んでくれる。クールフェラックさんはおかしをくれたこともあるんだよ。
フイイさんは「手に職をつけろ」って言って、いろんな道具の名前と使い方を教えてくれた。むずかしくてぜんぜん使えないけど。
コンブフェールさんは読み書きと数の数え方を教えてくれた。パリの地図も見せてくれたんだ。
プルヴェールさんは星の名前も教えてくれたんだ。プルヴェールさんのフルートきいたことある? きれいなんだよ。


マリウスさんとアンジョルラスさんにはじめて会ったときはびっくりしたよ。
マリウスさんは王子さまみたいなんだ。王子さまってなんだかよくわからないけど、マリウスさんみたいに真っ黒なかみでやさしくて、でも強い人なんだと思う。悪いヤツらをやっつけてくれるんだ。
アンジョルラスさんは天使みたい。1回だけ天使の絵を見たんだけど、その天使とかみと目の色がおんなじなんだ。ちょっと怖いときもあるけど、神様のお使いだからしかたないよね。男の人にきれいっていうのはおかしい? でも、きれいなんだよ、本当に。


あ、ぼく、コラントにも知り合いがいるんだ。
マテロットって名前の女の人。マテロットみたいな人がお姉さんだったらいいな。
料理のお手伝いをすると、時々残り物をくれる。雨の時はお店のすみで寝てもいいよって言ってくれた。
ジベロットっていう女の人とも知り合いだけど、マテロットほどは仲よくないな。でも食べ物とかお水とかくれる。
足がこんなんじゃなきゃ、コラントでマテロットとジベロットのお手伝いできるのになあ。料理をはこんだり、洗い物したり。
そんなこと言うとたいていの人は「男の子のくせに……」っていうから言わない。


テナルディエ? うわあ、あの人たちニガテなんだよね。怖いんだ。
時計とられそうになったり、ぼくを子どもにしたてて物乞いになったり、さ。
でもエポニーヌはきらいじゃないよ。「あんたも苦労してるんだね」って言ってた。ああ見えてエポニーヌはけっこうやさしいんだ。


1回すごくきれいな人に会ったことがある。黒っぽい服着て、ぼうしをかぶってた。
おなかがすいて足に力が入らなかったから、手だけで動いてたときに会ったんだ。ちょっとびっくりしたような顔をしてたよ。
男の人もいたな。でもあんまり覚えてない。きれいな人のお父さんみたいだったけど。
きれいな人の名前? コレットとかクローデットとか、よくわかんないけどそんな名前だった。男の人がそう呼んでた。
クールフェラックさんはムッシュー・ルブラン、マドモアゼル・ラノワールってあだ名をつけてた。男の人はかみが真っ白で、きれいな女の人は黒っぽい服を着てるから、だってさ。



ぼくはぼくなりに生きてるからだいじょうぶ。
でも、たいていはおなかすいてるし、食べ物にありつけてもほんのちょっぴり。服だって今着てるのくらいしかないし、家もない。
足が痛くて座り込んでるといつものように踏まれたりけっ飛ばされたりする。逃げたくても、そういうときにかぎって左足が動かなくなっちゃうんだ。


死んだお母さんは「神様のみ心を信じなさい」って言ってた。
でも、神様ってちょっといじわるだ。
ぼくは字もちょっとはわかるし、目も見えるし、ガヴローシュとかマテロットがたまに助けてくれる。お母さんが残してくれた時計もある。


でもね、そうじゃない人もたくさんいるんだ……
ぼくから食べ物をとっていく人もいるし、前にもってたコートはあげちゃった。
このぼくがもっとちっちゃい子に字を教えたこともあるんだよ。笑っちゃうよね。
あるときなんか、ぼくよりちっちゃい子がたおれてたんだ。近づいてみたらね……もう、死んでた。





この町はずっとこのままなのかなあ?
ぼくもいつかあの子みたいに死んじゃうの?
怖いヤツらはいつになったらいなくなるのかなあ?
ヤツらがいなくならなくても、いつになったら逃げ回らなくてすむようになる?
どうしたら左足はなおるの? 左耳は?
明日になれば世界はかわるっていうけど、本当に明日は来るの?





ねえ、だれか、教えて……。

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