旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

映画「いつか読書する日」

2007年11月09日 09時42分45秒 | Weblog
男を思う気持ちを押し殺して30有余年、牛乳配達とスーパーのレジ係で生計をたてる50歳の女が、死に際にある男の妻と会う。妻は自分の死後、女と男が結ばれることを願う。そして妻は亡くなる。同じ気持ちを秘めてきた男と女は結ばれる。女が牛乳の配達に出かけた翌朝、役所の仕事に向かう男は子供を助けようとして溺死してしまう。

「30年間やりたかったことをやろう。」という男の言葉に火をつけられたかのように激しく燃える男と女。この言葉が実に卑猥であった。女を田中裕子、男を岸部一徳、男の妻を仁科明子、女の母の友人の役を渡辺美佐子が演じている。

ストーリーだけならそこいらの昼メロである。ところがこの映画、男の心と女の心の移ろいを、些細な出来事のひとつひとつと長崎の街の情景とを積み重ねることによって丁寧に表現している。まるでしじまの中の煌きのような男と女の情感を日常生活の中で見事に描いている。映画が活字と同様に重要なメディアであることを再認識したひと時であった。テレビで見てこのありさまである。友人が言うように映画館で見ればもっと感動が大きいことであろう。

渡辺美佐子が演じる女の夫は認知症である。男の病状は深刻で徘徊すら始まっている。それでも女は献身的に男に尽くす。他人の父親を略奪した原罪を女は背負っている。久方の渡辺美佐子は良かった。いい味を出していた。