旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

モビィ・ディック

2011年04月18日 19時25分07秒 | Weblog
10年間にわたって労組の執行委員長を務めた男が管理職として赴任してきた。ある日「語り部がエイハブ船長の神話を淡々と語るメルビルの『白鯨』は魅力的な作品だね。」と語った。「語り部ってイシュメールのことですね。」と問うたが返答はなかった。あらすじを読んだだけで小説「白鯨」を読んでいないことがうかがえた。ひとの生き方は本の読み方に表れる。古典の場合、原典を読めば作者がテーマをどのように表現しようとしていたのかを自分の感覚で明らかにすることができる。筋書きや解説・概説などに依存すると解説者が作品をどのように解釈したかを読まされることになる。本好きを自認していた元委員長は後者の読書家だろうから、本の世界や現実というさまざまな解釈の森の中で煩悶していたに違いない。仕事の進め方についてこっぴどく叱責されたことがある。元委員長は露骨に企業の論理を押し付けてきた。うすうすと感じてはいた。すでにかれは組合員の側にはいなかった。かれは東京の本社に戻り私は会社を辞めた。数年が経った頃、泥酔して自損事故をひきおこし瀕死の重傷を負ったという知らせが入った。