murota 雑記ブログ

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(メモ)経済史の一断面。

2014年12月21日 | 歴史メモ
「ベルリンの壁」が崩壊するに至った1989年という年、東ドイツから西ドイツに50万人を超える大量の亡命者が発生、その大部分が乳飲み子を抱えた若夫婦だった。「乳幼児死亡率」で東ドイツは西ドイツに比べて極端に高く、1000人当たり19人であった。西ドイツでは9人、当時の日本では6人だった。東ドイツの若夫婦は自分達の子供のためには西ドイツへ亡命するしかなかったのだ。東ドイツという国家は国民に見捨てられたのも同然だった。そして間もなくベルリンの壁は崩壊の時を迎えたと経済学者の斎藤精一郎氏は述べている。

 一方で、日本経済は第二次大戦に敗北して壊滅的な打撃を被った。1945年の敗戦で、工場設備は米空軍の空襲で破壊され、海外から持ち込む原材料の在庫は完全に底をつき、完成品は軍需品という形でしか存在しない状態だった。凄まじいインフレが日本経済に襲いかかったが、政府は昭和21年(1946年)通貨改革を行い、通貨の発行量を制限することによって、なんとかインフレから脱却しようとしていた。米軍の占領下の中、第一に国民を養うための食料とエネルギーそして原材料を海外から輸入するために全力を挙げる政策しかとれなかった。経済活動の基盤となる社会施設、鉄道網も空襲で破壊されており、海上交通も途絶状態、大幅に不足する食料を最小限、国民に配給する責任を政府が負わねばならなかった。そこへ、アジア大陸から大量の復員者、引揚者が戻ってきて国土全体に溢れかえった。彼らは「闇市」と称する、政府の経済統制の網の目を潜った取引を展開する市場経済活動で自分達の収入を確保していた。こんな危機的経済状況の中、翌年、1950年(昭和25年)6月、朝鮮半島で武力衝突が発生(朝鮮動乱)。日本に駐留の米軍は、北朝鮮と戦闘を開始し、韓国を防衛するための兵力を準備。3年にわたる朝鮮動乱の幕開けだ。米軍中心の国連軍が必要とする大量の軍事物資を日本の工業生産で行い、いわゆる「朝鮮特需」が生まれ、トヨタ自動車の7000台に上るトラックの売れ残りなど全部、占領軍に買い上げられた。米国式の「規格厳守」、「品質管理」の手法も本格的に導入され、日本経済は急速に近代化に向かった。

 3年後の昭和28年(1953年)、スターリンの死去とともに休戦協定が成立し、朝鮮動乱は終結。ここで、日本経済は「スターリン暴落」といわれる経済危機に直面する。しかし、本格的な工業生産が可能になった日本経済は、国際市場に進出して日本商品を海外に販売する力を持つ。「粗糖リンク」という言葉がある。具体的な内容は、1万トンの貨物船を外国へ輸出した場合、その造船会社に対して「粗糖」1万5千トンを輸入する権利を日本政府が与えたことをいう。当時は食料不足で特に甘味料の不足が大きく、その「粗糖輸入権」を日本の砂糖会社が争って高値で買う。その金額が造船会社に対する補助金の役割を果たした。このシステムを利用し、日本の造船所は必死の思いで、円安レートでも容易でないコスト割れの輸出商談を逆転して、非常に有利な収益を上げた。ほかにも新しい補助金を生み出すシステムが日本経済の運営に利用された。日本には当時、製鉄所は存在したが、全て「連続圧延」のシステムではなかった。世界の鉄鋼技術の標準は連続圧延方式すなわちストリップ・ミルを使う方式だった。これを日本は初めて米国からの導入に成功、これが昭和31年、戦後11年を経過していた。富士製鉄広畑製鉄所で厚板の圧延設備に導入し、日本の鉄鋼業界の技術革新の第一歩となった。その後、日本の民間企業の先進技術による発展は軌道に乗り、戦前の水準を大きく上回る工業生産の実績を上げる。本格的な「大規模プラント」の建設が開始され、臨海工業地帯が拡大した。

 第二次大戦が終わり、解体・崩壊・消滅した陸軍、海軍は、消滅したままの状態を持続することはできなくなる。1950年(昭和25年)朝鮮動乱で、それまで日本に駐留してきた米占領軍は全兵力を朝鮮半島に移動させ、北朝鮮軍との戦闘になり、日本の防衛に充てる兵力が全く無くなる。敗戦国日本の「再軍備」が自由世界の防衛に必要となった。これが米占領軍からの指令による警察予備隊7万5千人の創設となる。戦後の再軍備においては、戦前における「徴兵制」を完全に否定し、「志願兵制」とした。アジア諸国では、日本を除いて全ての国は「徴兵制」。日本以外のアジア諸国では、徴兵適齢の男子は政府の正式な承認なしに海外に自由に旅行することは許されない。韓国では、国立ソウル大学に行くと、多数の軍服を身に着けた青年に会う。それはROTC(予備役将校訓練団)と称する、大学卒業後に少将として陸海空三軍に入隊する資格を認められるための軍事訓練を受けている学生達だ。米国の制度をそのまま持ち込んだのが韓国の制度。日本にはない、この格差は大きい。企業では、「工職格差」といわれるものがあった。職員、つまり幹部となる従業員は「月給制」だが、「工員」つまり現場の作業員は「日給月給制」だった。「工員」は欠勤した分、収入が減る。休む権利を有給で認められていなかった。この「工職格差」は細かい点にまで及んでいた。入退場する「門」すら「工職」の格差があった。これが戦前と戦後の違いだった。

 ドイツの企業は今でも「工職格差」の格差社会だ。現在も欧米の先進工業国においては、「職員」は月給を前払いしても、その月の月末までに退職して姿を消すことは有り得ない、つまり信頼できる評価を受けている。その見返りとして「職員」は全身全霊を挙げて企業経営に貢献する。その貢献の中には職場の中の改善提案を行う知的努力も含まれる。提案をして当然なのだ。これに対して「工員」は職員の命令通りに働けばよいのであって、それ以上の貢献能力は不要なのだ。従って、彼らの時間給には知的努力をすることは含まれていない。提案をして採用された場合のみ、給料とは別に「報奨金」が支払われるとする。職員の中には工員の名義を借りて提案し、報奨金を手に入れる者がいて困っているという。米国の自動車会社ゼネラルモーターズ(GM)は、かつて日本のトヨタ自動車とカリフォルニア州、フリーモントに合弁で組立工場を建設。GM側の最大の狙いはトヨタの最大の武器「カイゼン」そして「カンバン方式」を自分のものにしたい、その実演の場としてフリーモント工場を合弁で設立したいとの計画だった。しかし、導入できなかったのが「カイゼン」「カンバン方式」だった。その最大の理由がこの「工職格差」だった。全従業員が同一給与ということは有り得ない。米国の製造業では、従業員の平均給与は3万ドル、経営陣のトップは、その344倍、1千万ドルを超える高給取り。金融業なら、もっと格差がある。そして、経営破綻しても、責任者である旧経営者に対して高額のボーナスを支払う。今回の金融危機に際して、多額の資本注入を政府から受けている金融部門、特に証券投資部門の幹部に対して、既に1億6500万ドルのボーナスを支払い、米国全土を揺るがす大事件になった。同じことは英国にもある。巨額の公的資金援助を受けながら巨額のボーナスを経営失敗の責任者に追加払いしている。

 さて、日本の企業は不況により厳しい試練に立たされている。倒産した場合、日本独特の慣習で代表取締役は会社が外部に対して負う債務を必ず「個人保証」するという暗黙のシステムがある。代表取締役の私有財産も差し押さえられる。これは、米国、英国の業界と比較すると大きな格差といえる。経済界においては、金を握っている側は金を使わなければならない立場の企業よりも強い。だから、金融機関は有限責任の株式会社の代表取締役に対しては無限責任を要求するというシステムが今日まで生き残ってきた。先進国、さらにBRICsを含む世界各国の経済大国においては、こんなシステムを経営者に課すことはできない。

 20世紀の末から世界経済の基調が確実にインフレからデフレに移行した中にも、依然として「インフレ幻想」にとらわれていた人達が多数いた。それが金融不況により完全に崩壊し、デフレが基調であるという事実がクローズアップされてきた。今度はデフレを基調とする新しい消費構造が世界全体に生まれた。米国の消費者は、現在保有しているクレジットカードの大部分が「ノン・バリッド」(無効宣言)を受けることを覚悟し、最後に残った一枚のクレジットカードだけに利用金額を上回る金額を払い込むことでカードローンの返済を急ぐことになる。それまでの借金漬けの生活態度から堅実路線への転換だ。消費市場は縮小したが、販売競争は激しい値引き競争となり、消費生活の改善に貢献してきた。オバマ政権が発行した減税小切手も良い影響を与えてきた。かつてブッシュ政権が実行した1680億ドルの減税が2ヶ月にわたって米国の消費市場の縮小を抑えることに成功したことからもはっきりと分かる。以後は人口の自然増と正比例した消費市場の回復が始まる。自動車も売れ残り在庫が急速に縮小してきた。

 世界の先進工業国の中で、日本はGDPに対して3.17%の研究開発投資を実行し、それは決して低い水準ではない。米国は2.67%、ドイツが2.5%、英国は2.55%フランスは2.13%、中国は1.3%。研究開発投資の割合の差は特許の国際収支の黒字・赤字を決める決定的な要因。1992年には日本の経済は、特許の国際収支すなわち、海外に売る特許と買う特許との差が黒字に変わった。更に、1996年からは、世界の全ての国に対して特許の国際収支が完全な黒字となって定着した。世界の先進工業国といえども、日本から特許を買わずには経済活動を維持できないという状況になった。日本の技術水準の優位性が確立されたともいえる。日本の特許の国際収支の黒字は年間8000億円を突破した。日本は商品の貿易黒字を、知能の輸出による黒字が追い越す可能性もある。技術立国に成長している。また、日本は世界で最も強力な機械工業の先進工業国でもある。機械を作る機械すなわち「工作機械」、2005年の統計では世界全体の工作機械の市場占有率で日本は27%、日本製の工作機械が世界全体のほぼ三分の一である。その工作機械の中でも、最も精度が高く、生産性の充実したNC付(数値制御装置付)の工作機械の生産は世界全体の57%であり、世界の機械工業は日本の工作機械の輸入なくしては存立できない状況になっている。

 自動車工業についていえば、プレスを中心とする大量の金属加工機械が必要だが、トヨタが抜き去るまで世界一だった米国のGMは、このプレスの機械を日本の石川島播磨重工業で生産し、このためGMは毎年1億2千万ドルの維持補修費を石川島に支払う。つまり日本の基盤を活用することなしに「デフレ」時代の世界経済は如何ともし難い状況だ。

 消費財の市場が縮小するとともに、それが農業に影響し、さらに乗用車、家電工業と、いわゆる耐久消費財分野にマイナス要因としても働いてきている。世界不況は、この分野で強いマイナス要因が働いている。各国はどう不況対策をとるべきか。本格的に大規模な公共事業投資によってその基盤を整備することになる。これは消費市場への巨額の追加需要となる。財政負担が一時増加してもインフレにつながる心配は全くない。19世紀の大デフレのときに多くの公共施設が計画、完成されていった。それがスエズ運河、パナマ運河、3本の米大陸横断鉄道、さらにシベリア鉄道等であった。1930年代の「大恐慌」から脱出するため、ルーズベルト政権が思い切ってとった公共施設の拡大政策、これが「ニューディール政策」だった。その大きな部分が、ミシシッピ川を南北に貫く「航行施設」の改良と新設だった。奥地の農産地帯から穀物の積出港であるミシシッピ川の河口のニューオーリンズまで穀物の輸送運賃は大幅に削減され、米国の農業は、かつてないほど強い国際競争力をもつことに成功した。ミシシッピ川を運行している艀を一とすれば、鉄道でもし輸送すると同一距離で8倍の運賃がかかる。トラックで輸送した場合は25倍になる。アルゼンチンやブラジルでもラプラタ川やアマゾン川を内航水運の柱とするべく改修工事を計画したわけである。これをやらないと、自国の農業の生産拡大で経済発展させられない。

 パナマでは2007年から改修工事が開始された。パナマ運河は1914年に開通したが、運河の幅が33メートル、これでは、大型の高速コンテナ専用船の通行が不可能なため最低でも幅50メートルの運河にする必要がある。パナマ政府は6000億ドルという巨額を投じて第2パナマ運河の建設工事に着手した。ヨーロッパでも、ロンドンとパリの間を「のぞみ型新幹線」が運行を始める。イギリスの東海岸を南北に、ロンドンからグラスゴー1200キロに「「のぞみ型新幹線」を計画した。「のぞみ型新幹線」を大量に供給する力を持つのは日本の車両工業でもある。

 フランスで新幹線とされるTGV、パリからリヨンまで400キロの車両は椅子が3列しかない。「のぞみ型新幹線」は5列の椅子。TVG車両で簡単に5列には出来ない。高速のために車両の設計から製作のノウハウまで日本の技術導入が待望される。中国でも、中国大陸を南北と東西貫通する幹線それぞれ4本を構想、「のぞみ型新幹線」を必要としている。

 さて、日本企業の生産移転が続く東南アジア各国で労働者の賃金が急上昇している。2015年の月額最低賃金はインドネシア、ベトナム、カンボジアで前年比2~3割上がる。一部の国では中国の主要都市の8~9割の水準に達する。低賃金を求めて中国から東南アジアに拠点を移してきた日本企業にとってコスト上昇要因となり、再び対応を迫られる。


1 コメント

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近代史には教訓が多いですね。 (K.T)
2014-12-21 09:24:25
 20世紀の末から世界経済の基調が確実にインフレからデフレに移行した中にも、依然として「インフレ幻想」にとらわれていた人達が多数いた。それが金融不況により完全に崩壊し、デフレが基調であるという事実がクローズアップされてきた。デフレを基調とする新しい消費構造が世界全体に生まれた。だが、今はどうなのか、特に日本は?
さて、日本は世界で最も強力な機械工業の先進工業国でもある。機械を作る機械すなわち「工作機械」、2005年の統計では世界全体の工作機械の市場占有率で日本は27%、日本製の工作機械が世界全体のほぼ三分の一。その工作機械の中でも、最も精度が高く、生産性の充実したNC付(数値制御装置付)の工作機械の生産は世界全体の57%、世界の機械工業は日本の工作機械の輸入なくしては存立できない状況とは面白いですね。
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