5月の下旬の昼間、真夏のようにすごく暑い日だったのだけど、私は六本木にいた。
六本木に限らず、都会は、暑い日はどこに行っても暑い。
20世紀の終わりごろに人気作詞家安井かずみは六本木にミュージシャンの加藤和彦と結婚して暮らしていて、それから肺癌で亡くなった。
私は別に安井かずみの元住居を訪ねたくて六本木に行ったわけではないのだけれど、ここは都会だな~田舎者の私には生活できる場所じゃないな~と思ったりした。
私の世代は安井かずみの曲によくなじんでいる。そして彼女は沢山のヒット曲を世に送り出していた。
はちゃめちゃな生活をしていた安井かずみは結婚してコンサバな人に変わった。昔の友人たちと離れていった。そして夫に依存してゆくようになる。
六本木の朝、自宅のテラスかサンルームのテーブルで真っ白いワンピースを着て、一人で紅茶を飲んでいる女性がいるとしたら、それが安井かずみだったという。
(これを書いたのは、森瑤子だっただろうか。彼女も既に泉下の人であり、当時あれほど売れっ子作家だったにも関わらず、書店で彼女の作品を見つけるのは難しい)
私はそのイメージが心に焼き付いて離れない。なんというコンサバな生活。ワンピースはおそらくシャネル(これは私の想像に過ぎないけど)
もっとも自立していたように思われていた女性が、最期まで夫に依存し、亡くなった直後に、夫は家の中から亡妻の思い出の品を皆処分してしまい
亡くなってから一周忌も経たないうちに、元夫は再婚してしまう。
破天荒からコンサバへ180度の回頭、私はそれが知りたくてこの本を読んだ。
富も名声も手に入れたはずの彼女が、独りになるのを畏れていたことを知った。
今日もカラオケでは安井かずみの曲が唄われているのだろう。彼女は子供を残さなかった代わりに何千という曲を残した。
多分、こんな作詞家はもう現れない。(興味を持ったら画像をポチっとしてください。そういえば若い頃、夜の六本木でムッシュかまやつ見かけたなぁ・・・)
私は、道に迷いながら、六本木から西麻布のあるお店を、うだるような日差しを受けて歩いて行った。目的地は、警察に訊いたらすぐ判った。
判ったのでほっとして、喫茶店に入りアイスカフェオレを注文して喉の渇きを潤したのだった。