新潟久紀ブログ版retrospective

新行政推進室4「新行政の創造に向けて運動を展開する」編

●新行政の創造に向けて運動を展開する

 室員の皆さんから思いの丈の意見を様々と聴くと、新行政推進室が向き合うべき論点は多岐に亘り、その取り組み方も分野や立場などにより多様なものとなろうことが浮き彫りとなった。よって当室が取り組むべきは、命題として特定の政策目標を掲げるということではなく、突き詰めると「県民本意」のものの考え方で県職員や組織が各々に意を用いてそれぞれの仕事をより良いものにしていくということではないか。職員一人一人が自律的に考えて対応策を講じて実践して行く取組は、言うなれば、そうした運動を展開して行こうということなのだと思う。室長は語り続ける。
 運動を展開するにあたっては、その体を表す「名称」と「キーワード」が重要となる。皆さんから出された意見の中から整理してみるとそれは、新たな時代に即した県行政政を創り上げていこうということなので、「県行政創造運動」としてはどうか。奇しくも3年後には2001年。21世紀を迎えるタイミング。公金不適正支出など諸問題を起こした封建的で古い体質からの大転換にあたり「21世紀」を冠することが新たな時代を象徴するだろう。つまりは「21世紀の県行政創造運動」と銘打ってみてはどうか。
 一般的に行政の仕事は法令に基づくものであり、なにか新しいことを展開するにしてもある程度は論点が限定的なので、課題や取組内容を積み上げてみて全体を見渡して総称する名称を決めるということが多々あるが、今回のようにどの部署や誰が何をどうするというのが各々で異なり一概に括れない場合は、イメージ的に共有できる名称をある程度感性的に決めねばならないのかもしれない。室長は以前、企画課長として県の長期計画を取りまとめた経歴をお持ちだが、そのキャッチコピーを表すチラシは「羅針盤」の絵柄の上に「県政の方向はこっちだ」と表示したものであった。似たような経験を踏まえての対処なのかもしれない。
 「そして、内外に一気に浸透させるために重要となるキーワードだが…」と室長は続ける。「意見交換の中でも出ていたが、ズバリ「県民起点」としたい。全ての仕事に関わる職員、ひいては県の外郭団体やと取引のある業者までも含めて、およそ県行政に直接間接に関わる人達が仕事を進めるに当たって意識して欲しいことを端的に表しているワードだ。要するにこの理念を浸透させる運動を展開するということに当室の使命は収斂するのだと考える」。
 トップダウンの言い渡しではあったが、確かに室員全員で行った意見交換を汲み取ったものと感じられる説得力がある。私は、近頃何処もかしこも流行となっていた「有識者による委員会」方式での議論に何もかも委ねる形を取って、いわば客観的な場を通じたというアリバイをもって、「新行政推進」とは何をどうするのか、その標榜も含めて決めていくのだろうなと考えていた。しかし室長は、少なくとも意識が高く怖い物知らずが寄り集まった室員を頷かせる案を、竹を割るようスパッと示して見せた。私は、職員自身の頭でしっかりと考えてこそ責任意識を伴う企画立案を打ち出せるとの思いを新たにした。
 新行政推進室が発足して何をすべきかの議論が始まったばかりであったが、外野は放っておいてはくれない。広く県民に県行政のトピックスなどを広報する「県民だより」に、新設された当室を紹介する記事を書いてくれと、担当の広報広聴課から4月も早々に要請が来た。私は庶務総務の役目を担っていたし、「開かれた県政推進担当」といういかにも広報担当っぽい配属なので、掲載内容を考えるようにと室長から指示を受けた。
 さて、どうしたものか。新行政推進室でやることの具体はまだ何も決まっていないということをそのまま書いては芸が無い。一方で、論点や課題など丁寧に書き込んだとしても、新聞に挟まれて配布される役所の広報誌などを真剣に読み込んでくれる県民が多くいるとは思えない。要は、新しい部署を設置してまで大きな変革をもたらそうとしていることを印象的に伝えるキャッチな発信が肝要だと考えた。
 「役所工事宣言」。A4版複数ページの「県民だより」表紙の四分の一くらいを占めるほど大きな活字で縦に記した。県庁の大改革を始めますよという意思を、当時ヒット映画で評判を大きく上げていて誰もが知る俳優の「役所広司」氏に掛けたコピーを考え、新行政推進室の公金不適正支出問題等を踏まえた発足経緯や取組みの方向性などの紹介文と共に室長に伺った。
 「先日の室全員による意見交換でもあんたは変わったことを言うなあと思っていたが、"役所工事宣言"とは。まあ面白いね。」と強面の室長は意外にもあっさりと了承。もっとも「この程度の仕事は部下に任せるよ」という軽いあしらいのようでもあった。なので、外向けに出て行く記事である以上、事前に必要となる総務部長への伺いも、「あんた一人で説明してきて」という具合だ。
 総務部長は昨年一年間にわたる大行事であった旅費問題等調査の総括責任者その人であり、私が全庁分の調査内容の取りまとめ作業を担当するにあたり、部長用のパソコンを貸してくれた人だ。アポを取って私一人で総務部長室に行って説明すると、「"役所工事"…面白い。いいねえ。」と目尻を下げて了解。しかし、紙面をさっと眺めると、金縁眼鏡の奥の細い目をクワッと見開いて、「ここに示してある県庁と県民の関係を示すピラミッド型の図は、起点や基盤という意味で"底辺"を県民としているようだが、県民は上位に表されなくてはなるまい。逆三角形にしなさい」と一喝。確かに、イメージ図であるからこそ真意がにじむものとすべきであろう。自分の迂闊さを改めて知り、気を引き締めていこうとの思いを新たに総務部長室を後にした。


(「新行政推進室4「新行政の創造に向けて運動を展開する」編」終わり。「新行政推進室5「5本柱による行政改革の取組みと広報展開」編」に続きます。)
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