新潟久紀ブログ版retrospective

柏崎こども時代4「警察に保護され母を呼び出す(その2)」

●警察に保護され母を呼び出す(その2)

 私と近所の同い年の男児二人が静かな踏切内に入り込んで歩き始めても、誰も止めるものは辺りにいなかった。
 夏休みか何かで幼稚園に行かずにいた平日の午後、昭和30年代以降の高度経済成長の波で畑地が開発されて住宅が立ち並んだ私の住む町は、大方が核家族で親世代は皆が働きに出ていたので、車や人通りが殆ど無く、遠くから工場のプレス機械の打音が聴こえてくるくらいしかない静けさだった。とにかく大人の目というものがない”魔の刻”であったのだ。
 私達の家の近くには、この辺りを城下町だと言わしめるほど世界的な製品シェアを誇る大きな金属加工工場「リケンピストンリング」(現在のリケン)があり、軍需関連工場でもあったことから当時の国鉄越後線はその敷地内を通っていた。その工場では多くの従業員や工員達、トラックなどが忙しそうに行き来していたので、その門前にあった踏切りであるならば、線路に入った我々は直ぐに大人に見つかって叱られて泣いて家に返されることになっていたであろう。
 しかし、いつも大人たちの目をかいくぐって遊ぶことがなりわいのようであった男児たる我々は、鉄道列車を踏切まで見に行こうと決めた時、何の躊躇もなく大人達が居なさそうな場所を選んでいた。過去にどれほど怒られたり叱られたりしたわけでもないのに大人の介在をうっとおしく思ってしまうのは本能から来るものなのだろうか。
 なので、誰に咎められることなく、本当に自然に、そしてウキウキすらして、私達二人の幼児は線路に敷かれた二本のレールの真ん中を正に大手を振って歩き始めたのだ。
 地図の概念など無い年頃であったが、物心ついて直ぐとは言え、最寄りの駅が線路のどちらの方向にあるかは間違えなかったようだ。レールの下の茶色くくすんだ枕木を踏みながらその合間から灰黒の砂利を見ながら歩くのが何故か楽しく思えて、幼児にしては速めの歩調で進んでいたと思う。列車の気持ちになったようだったのかもしれない。
 後ろになったり前を歩いていたりした相棒は、日頃から遊びの時は皆をリードしがちであり、今回も最初は陽気にしていたが、周囲のあまりの静けさと、鉄路の単調さに不安を覚えて来たのか割と無口になってきた。目指す列車らしいものは遠くにも見えないし、空からカラスか何かの遠鳴が聴こえるくらいしかない静寂の夏の昼下がり。鋭敏な感覚の彼は子供心に何か良くない兆しを感じていたのかもしれない。
 踏切りに入って線路を歩き始めてから何分経ったのだろうか。もちろん経験したことのないルートであり、何か結構長く歩いたように覚えている。今となって地図で確かめるとわずか300メートルほどでしかないのだが。いずれにしても目的としていた駅舎の雰囲気らしくなってきた。単線のレールが二股に分かれてその右側に骨組みのアーケード状の建物が見えてきたのだ。
 単純に「あれぇ」と思った。駅のホームは閑散としていて、列車も停まっていない。駅に来れば何時でも列車に遭えると思っていた私達は、正に茫然としてしまった。列車を見るためには、更にまだ進んでいかなければならないのかと。
 その刹那、ホームに向けて線路の上を黙々と歩く私達の前に、グレーっぽい色の服姿の二人の男組が駆け寄ってきた。近づきながら何か話しかけるか否か、彼らは私と友人を各々で一人ずつ抱きかかえてあっというまに線路外に連れ出したのだ。私は何が何やら分からずに抗うでもなく反射的に身を固くしてただ静かにしていた。

(「柏崎こども時代う4「警察に保護され母を呼び出す(その2)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代5「警察に保護され母を呼び出す(その3)」」に続きます。)
☆ツイッターで平日ほぼ毎日の昼休みにつぶやき続けてます。
https://twitter.com/rinosahibea
☆新潟久紀ブログ版で連載やってます。
 ①「へたれ県職員の回顧録」の初回はこちら
 ②「空き家で地元振興」の初回はこちら
 ③「ほのぼの日記」の一覧はこちら
 ➃「つぶやき」のアーカイブスはこちら

コメント一覧

niigatahisanori
いつも叱咤激励をいただきありがとうございます。
dankainogenki
少年・少女時代のほろ苦い経験は、
大人になるための肥やしですよ。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「回顧録」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事