柏崎こども時代3「警察に保護され母を呼び出す(その1)」

●3警察に保護され母を呼び出す(その1)

　あれは小学校にあがる前、昭和40年代半ばの年の夏ではなかったか。

　私が住んでいた家は、普通自動車が入るのに苦労するような砂利道沿いの畑地に核家族が不規則に家を築造していったような土地の中にあり、令和のようなきちっと区画が整えられて計画的に売りさばかれていくような住宅地ではなかった。

　なので、個人の家と畑や空き地が混在していて、家や物置小屋の間隔の狭い所などでは子供の隠れ家的にもなったし、自然の雑木林や畑の脇にはイチジクやナツメなどもあったりして、遊びながら天然のおやつも補給できたものだった。今から思えば昭和時代の小さな子供が遊び育つには良い環境だったと思う。

　更に、偶然にも、隣り合って連なるような近所の大抵の家に同い年くらいの子供が住んでいたので、外で子供の声がすれば自然と皆が出て来て缶蹴りやらビー玉遊びなどが展開できた。

　同い年の中でも運動が達者でいつも外で遊んでいて肌も薄黒いくらいの男子がいたのだが、蒸し暑いその日はどうした関係か、いつもは自然に寄り集まってくる畑の間の草叢に彼と私しか出てこない。そこで近所の何件かに二人で誘い出しに行ったのだが、どの家も出掛けているか何かで馴染みの子供たちが不在という事態に。

　「たった二人で何する」ということになり、大抵の遊びは最低でも四五人でないと面白くないねということで、どちらだったか忘れたが「ならば”きしゃ”でも見に行くか」と言い出した。

　男児というのは生来、クルマや機関車など乗り物が好きなのかもしれない。当時の私は父親が運転する”三菱コルト1100”くらいしか乗せてもらうものはなく、当時最寄りの「比角駅」がある「越後線」を走るディーゼル機関車でさえ乗車したことはなかったのだが、祖母や親に手を繋がれて近所の踏切りで走りゆく列車を眺めたりしているうちに憧れのような思いを抱いていたのかもしれない。

　なお余談であるが、当時の列車はディーゼル機関車であったのに、昭和の幼い我々は皆が「きしゃ(汽車)」と呼んでいた。おそらく大人が慣用的に言うので真似をしていたのであろう。小学生くらいになっても「きしゃ」と言っては頭の良い級友に誤りをたしなめられたことが思い出される。

　さて「きしゃ」はどこに行けば見られるのだろう。見たことがあるのは例の赤いランプが交互に点灯してけたたましくカンカンと鳴り響く「踏切り」だ。早速二人は近くの踏切を目指すことになる。

　近所最寄りの踏切に着いてみても例の警告の赤い点灯も音も聞こえず遮断器は開いたままで列車の来る気配はない。通過時間を調べて来たわけではないし、二三分おきに電車が行き交うような大都会でもなし。暫く踏切り前で二人で佇んではいたものの退屈で次第に我慢できなくなってきた。そこでおそらく私が言ってしまったのだと思う「駅に行けばきしゃが見られるのでは」と。

　学齢前の二人は、公道を通って最寄りの駅まで行くという考えにはならず、もっとも、どういう順序で道路を行けばということすらも分かっていなかったと思う。結局は「線路を歩いていけば行けるよ」ということになってしまった。間違いないがとんでもない話だったものの、幼児の二人は何の不安もなく線路を歩き始めてしまったのだ。

(「柏崎こども時代3「警察に保護され母を呼び出す(その1)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代4「警察に保護され母を呼び出す(その2)」」に続きます。)
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