新潟久紀ブログ版retrospective

財政課3「特命1「会合ガイドブック」(その1)」編

●特命1「会合ガイドブック」(その1)

 官官接待等で全国的に大変な騒ぎとなり、本県でも食糧費という予算の一部がそうした用途に使われていたことを判明させた平成9年度の旅費等調査委員会。その調査員として作業に当たっていた私に、よりによって飲食を伴う会合に過度に消極的にならないようにするための指針を作れとは…。当時の総務部長は「そこは敢えての判断だ」と言っていると、直接聞き受けた私の上司である係長は話し続ける。
 鉄は熱いうちに打てだ。様々な膿が絞り出されてこの事案に対する関心が高い今こそ、正しい会合のあり方を改めて明確にして、民間の本音ベースの意向のきめ細かな把握を通じた政策形成や事業運営の改善を積極的に推進していく好機である。そして、そのための指針案の検討作業にあたるのは、公金不適正支出問題の調査を通じて表も裏も知り抜いた職員が良い。概ね部長はそんなお考えを係長にお伝えしたらしい。
 それにしても、飲食を伴う会合のあり方や対象とできる例示については、同じ財政課の予算査定チームの係長格の職員が担当して取りまとめ、つい先日の平成10年5月15日付け全部課長宛ての総務部長通知として発出されたばかりではないか。それは、例の旅費問題等調査委員会による調査結果を受けての改善策の一つとして鳴り物入りで具体化されたもの。後追いでともすれば緩みを与える恐れもある"積極推進のための指針"を打ち出す必要があるのか。私は係長に食い下がる。
 係長は私の気持ちはもっともとしながらも、特命の趣旨を改めて私に諭す。その通知は公費の支出を認める会合について、「行政執行上の明確な目的と必要性に基づいて行われる意見交換や情報交換等に伴うもの」と「国際交流等儀礼的なもので社会通念上妥当とみられるもの」を掲げ、「国、他の都道府県、市町村等公的機関から飲食を伴う申し出があった場合は「受けない、求めない」が原則」と明記している。基本的な考え方としては十分な記載だが、全部署への一律の通知という体裁上、各分野において多様な個別具体の会合の適否を考えるにはあまりにも概括的となっている。通知文の冒頭には、「所属長の責任において適正かつ厳格に」と記されているので、"触らぬ神にたたり無し"よろしく、貝のように民間との接触を自粛する動きがもう出始めている。民間からのそんな指摘や庁内に漂う雰囲気を察知して、部長はブレーキだけでなく、適切なアクセルも必要だというわけだ。
 確かに公務員というものの功罪を感じる部分だ。すなわち、民間と異なり、やってもやらなくても給与が変わらないのであれば、危ない橋を敢えて渡るリスクは取らない方が利口だ。長くない私の県職員勤めの中でも、面倒を先送りしたり無作為での乗り切りを図る先輩達を少なからず見てきたものだ。とかく事務的に報告されてくる定例的なデータをもとに机上で企画立案しがちな場面は私も思い当たることがあった。県行政にはもっと臨場感が必要だ。そのために形式的な会議体や県庁への気遣いが強い慇懃なやり取りを通じた建前ではなく、場合によっては酒の力で本音を引き出すくらいの場がもっと必要なのかもしれない。僕が尊敬して止まない前職でのボスで現在の部長であるお方も「酒を酌み交わしての議論は日本人の文化だ」と言っていた。なんとなく特命の正統性を自分なりに咀嚼できたので係長に「そういうことならば引き受けましょう」と応じることにした。
 一旦、頭の整理が付くと私は切り替えが早いのが取り柄。現場感と臨場感がキーワードということなので早速、生活環境、福祉、産業労働、農林水産、土木…と具体的に県民を対象とする事業を推進する政策分野ごとの部局の窓口担当職員に、先ずは実情を聴いて回ることにした。少なからず公金不適正支出問題の調査班員として庁内に名が知れていた私の問い掛けに、皆が最初は怪訝な応答をしたが、趣旨を説明していくうちに、"だからこそ私が担当"ということに得心したようで、各々が会合の状況を教えてくれ始めた。
 民間との会合については、想像以上の凍り付き方をしているので驚いた。"羮に懲りてなますを吹く"の例えのように、特に飲食を伴う会合については"超"自粛状態になっているという。事業担当者から総務の窓口担当者へ「こうした会合を開催しても良いか」といった相談が無くは無いのだが、例の通知の「所属長の責任で」という一節に皆が恐れおののき、前向きなゴーサインを出せないという。公費を使わない私費持ち寄りの簡易な会合であっても拒絶している話も聞く。二枚貝のように見えない砂の中では足を伸ばし放題だが、いざ注目されると一気に口を閉じてしまうという公務員の体質が如実だ。
 ただ、このままでは生活や産業等の現場に滲み出るニーズをすくい取れないという思いは皆が同じ思いのようであった。指針を作るにしても、当事者たる部局の関係者が「我が意を得たり」と思ってもらえるものにしないと、例の上意下達的通知と同じで血の通った感の無いものとなってしまう。関係者が皆で取りまとめるという形態が必要だなと思い、政策事業の推進を担う部局の窓口担当実務者によるワーキングチームを編成して作業を進めようと考えた。

(「財政課3「特命1「会合ガイドブック」(その1)」編」終わり。「財政課4「特命1「会合ガイドブック」(その2)」編」に続きます。)
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