嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ 『 season 』 (10)

2010年05月03日 | 妄想ドラマ『season』
     妄想ドラマ『 season 』 (10)



ステージの中央で客席にむかって一礼し、子ども達の方を向いた。

手で座ってという合図を出すと、みんな一斉に腰を下ろした。

大野先生のアドバイスに従って、左から右へ順番にしっかり子ども達の目を見る。

といってもほんの数秒のことだったと思う。

いつもの見慣れた顔が並んでいたが、その瞳は高揚した気持ちを表すようにキラキラと輝いている。

いける。大丈夫だ。

わけもなく確信した。

スッと動悸が治まって視界がクリアになった。

胸の前に両手をあげると、子供達が楽器を構える。

次の瞬間、俺の両手は振り上げられ金管楽器の綺麗な音があふれ出す。

演奏曲はスターウォーズに始まる映画音楽のメドレー。

壮大な映画の世界が一気に会場を包み込む。

身体が自然と心地よいリズムを刻んでいる。

時にはダイナミックに、時には優しく子供達とひとつになって

演奏する喜びに浸った。



6分間の演奏が終わった。

会場から拍手が起こり、とたんに足がガクガクして胸が熱くなる。

無事に終わったという安堵感とは別に、感動の波が押し寄せていた。

音楽って素晴らしい。

今日ここに立たせてくれた子供達にお礼を言いたい気持ちでいっぱいだ。

ステージの裏には大野先生が待っていて、何も言わずに力強い握手を交わした。

控え室への廊下を歩きながら、シュウが笑顔で親指を立てて見せた。

どうやら合格点をもらえたらしい。

どの子の顔にも、ひとつのことをやり遂げた満足感が漂っている。

あとは結果が付いてきてくれることを願うばかりだ。

控え室にもどって楽器を片付けると、市民ホールの表で記念撮影をした。

遅くなるので審査結果が出るのを待たずに帰路についた。


「アイス!アイス!」

帰りのバスの中で、子供達はすっかりリラックスしてはしゃいでいる。

審査結果よりもアイスが気になるらしい。

「先生、Hサービスエリアのキャラメルアイス忘れてないよね」

朋香が後ろの席から身を乗り出して俺に言った。

なんのことだろう。

「もちろんだよ。櫻井先生が忘れるわけないだろ」

二宮先生が朋香にそういうと子供達から歓声が上がった。

それから二宮先生は俺の隣に座ると小さな声で言った。


「あのさ、子供達に頑張ったら帰りにサクショウがアイスおごるって

 言っちゃったんだよね」

「えっ、いつ?」

「前の学校が演奏してる時」

「おごるって全員に?」

「そりゃそうでしょ。みんな頑張ったんだから」

本番直前のみんなの笑顔はそういうことだったのか。

「Hサービスエリアのキャラメルアイスってテレビでも紹介された?」

「そう」

「急に全員分なんて買えないんじゃ・・・」

「大丈夫、行きのトイレ休憩の時に頼んでおいたから。ちなみに先生と俺も数に入ってます」

さすが二宮先生のやることに抜かりはない。

財布の中身が不安になった。

いったい1個いくらだ?


その時、バスの最後部に乗っていた保護者のひとりが携帯を手にしたまま大声で言った。

「入賞したって!ビューティフルサウンド賞。東海大会の出場が決まりました!」

拍手が巻き起こった。

俺は立ち上がって手の届くかぎりの子供達とハイタッチをした。

こんなに嬉しいことは何年ぶりだろう。

「丸田先生やったよ!」

バスの進行方向にむかって思わず叫んだ。

座席に座ると二宮先生がガッツポーズをして

「おめでとう。よかったねお祝いのアイスだ」

と言った。

もし、俺がドジってだめだったらどうするつもりだったんだ。

「ダメでもみんな喜んでアイスを食べたと思うよ。ただそのときはお詫びのアイスってことになるね」

何も言ってないのに俺の思ったことがわかったのだろうか。

それから急に真面目な顔になって言った。

「でも俺はサクショウならやってくれるって信じてたよ」


バスの運転手さんがもうすぐHサービスエリアに到着しますとアナウンスした。

すると二宮先生が俺の肩に手を置いて悪戯っぽく笑った。

「櫻井先生、お金足りなかったら貸すけど?」


   -------つづく--------


コメント (2)
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